ラジオ


お腹いっぱいハンバーグを食べて、
会計を済ませて出てくる。
外に出ると気持ちいい。
お腹いっぱいの効果かもしれない。
満足。
満ち足りているというやつだ。

車で少しドライブする。
気持ちいいネネはうつらうつらと眠る。
車の中はなんだか心地いい。
安全運転だとなおさらだ。
ネネは夢の中に落ちる。

とろとろした夢の中、ネネは火を見る。
火を見るより明らかなんて言葉があるが、
これは火だ。
火が何かを飲み込んでいる。
誰かわからないけれど人だ。
悲鳴を、断末魔の悲鳴を上げている。
ネネはあたりを見た。
たいまつを持っている人がいる。
それは、辻だ。
ネネのクラスメイトの辻だ。
そして、その影には、タミがいる。
火によっててらてらと照らされるなか、
辻は無表情に火を見ている。
「これでご家族は、おじいさんのもとに行けましたよ」
タミが笑う。
それはとても怖い。

「ひどいなぁ」
マモルの声でネネは目を覚ます。
「うーん?」
「渋滞だよ。道を間違えたかな」
「あれじゃない、ほら、火事の」
ミハルの言葉にマモルは思い当たったようだ。
「ああー、それなら別の道にすればよかったな」
ネネは自分の夢を思い返す。
辻が火を放っていたらしい夢。
「まぁ、誘導してもらえるんじゃない?」
「そうだな」
しばらく渋滞に難儀していると、緩々車が進みだす。
真っ黒になった家を傍目に、車は渋滞を抜けていった。
「ネネのクラスメイトのお家なのかしら」
「わからない」
ネネはそうである確信と、そうであってほしくない願いがごちゃごちゃになった。
「そうだぞ、辻なんてよくある苗字だしな」
マモルは言うが、ネネはそれを飲み込めない。
「ラジオをつけよう」
渋滞を抜けた道で、マモルがラジオをつける。
ノイズ交じりのラジオが聞こえる。
「次のニュースです」
ニュースが始まった。
それはネネの聞きたくないことを突きつけてきた。
辻の家で家族が全員遺体で見つかったこと、
長女は家にいなくて無事だったと。
たいまつを持った辻が思い浮かぶ。
その影にはタミがいる。
「警察では放火の可能性も見て、出火原因を調査しています」
ニュースは一つ、それでくくられた。
「次のニュースです」
ニュースは続けようとしたらしいが、
マモルがラジオのチャンネルを変えた。
「ひどいなぁ」
マモルはつぶやく。
「放火の可能性もあるなんて、ひどい」
「原因は調査中でしょ」
ミハルがたしなめる。
「それでも、家族がみんな死ぬなんて、やりきれないだろ」
「やりきれないわね」
車内はつらい空気に包まれた。

「ハーイ、続いてのおたよりは、ラジオネーム、タイトさんから」
明るいラジオのチャンネルの、
明るいDJの声がする。
たわいもないことを葉書で読んで、
リクエストした曲がかかる。
そんなシステムのよくある番組だ。
「ミミさんこんにちは、はい、こんにちはー!」
DJがリスナーに向かって挨拶する。
「僕の学校では占いがはやっています。へー、すごーい」
DJが大げさに驚く。
「よくあたる高校生占い師がいて、テストのヤマまで当てました。うっそー!」
ネネは凍りつく。
うちの学校の誰かではないかと。
「では、タイトさんからのリクエスト曲…」
当たり障りのないポップスが流れる。
佐川様が電波に乗っている。
高校が特定されたら、佐川様はもっと拡大する。
佐川様は病気みたいなものだ。
感染する。
みんな感染しているのかもしれない。
そして、佐川様に嬉々としていろいろなものを食わせている。
ネネはそんなイメージを持った。

「ネネ」
ミハルがネネに声をかける。
「うん?」
「ネネは占いってどう思う?」
「あたったらそれはそれで怖いもの」
ネネはなんとなく思ったことを言ってみた。
ミハルはうなずいた。
「それでいいのよ。多分」
運転しながらマモルもうなずいた。


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