やりたいこと


ネネたちは家に帰ってくる。
ネネは靴を脱いで、部屋まで持っていく。
階段を上がり、自分の部屋で落ち着く。
『おかえりなのです』
頭の中で鈴を転がすような声がする。
いつものドライブの声だ。
「角砂糖持ってくる?」
ネネは渡り靴を置きながら、声に答える。
『角砂糖は欲しいですけど』
「けど?」
『何か妙な気配のところを行きましたか?』
「妙な気配?」
『テストの解答のコピーと同じような気配です』
「解答と同じ」
ネネは考える。そして思いつく。
「火事の家」
『焼け焦げたにおいです』
「うん、クラスメイトの家らしいってこと。そこの現場近くを通った」
『ひどいにおいです』
「ラジオでは、家族が死んだらしいよ」
『占い師が絡んでいる可能性は?』
「クラスメイトは、家族を代価にして占いをしてもらってた」
『ふむ、そして家族が焼けたというわけですね』
「らしいってことだけ」
ネネは全部肯定は出来ない。
タミに、ものすごい力があることを、認めたくない。
認めたらそれはとても恐ろしいと思う。
『角砂糖をください』
ドライブが言う。
ネネはうなずくと、階下へといった。

台所から角砂糖を一つ失敬して、
ネネは階段を上がる。
部屋に戻ってきて、ドライブに角砂糖をあげる。
ドライブは角砂糖をかじる。
静かな時間だ。
ネネは自分が髪を二つ縛りしていたことに気がつく。
ドライブをほっといて、野暮ったい髪をといて、一つに結びなおす。
『似合っていたのに、もったいないですよ』
「うるさい」
ネネは一つに結びなおす。
『おしゃれしたら、きっときれいですよ』
「ふん」
ネネは鼻をならす。
どうせきれいになんて、なれないのだ。
『ネネは磨けば、すごくきれいになると思うのです』
「どうせ野暮だよ」
『うーん』
ドライブが角砂糖を食べ終えて、何か考える。
『花がどうして美しいか』
ドライブは語りだす。
『花は、美しいことと、種を残すことだけを考えていると思うのです』
「そうかな」
『花の考えを聞いたわけではないです』
「そりゃそうだ」
『でも、花はそれだけ考えているのです』
「ふむ」
『美しくなりたい。そう思っているから、花はきれいなのです』
ネネは花のきれいなのを知っている。
花の思いを汲み取って生けることが出来たら、
それはとてもいい作品になると思う。
『ネネは美しくなりたいですか?』
「わかんないよ」
『では、ネネはどんなネネになりたいですか?』
ネネは少し考える。
「変な話だけどさ」
ネネはポツリと話し出す。
「勇者にもなりたいし、華道もしたいし、もっといろんなものも見たい」
『そうですね』
ドライブはうなずく。
『人間はいっぱい考えるから、美しさも複雑になれるのですけど』
「けど?」
『ネネは花に似ています。一つの行先を求めて、一途です』
「線を辿っているからかな」
『線だけではないかもですけど、ネネはいくらでも可能性があります』
「可能性かぁ」
ネネは天井を見る。
当たり前の部屋の天井でしかない。
可能性があれば、風にだって乗れることだろうか。
勇者にだってなれるだろうか。
線を辿っていく先で、線を切り替えることだって出来るだろうか。
『線を切り替えれば、運命さえも変えますよ』
「それがよくわかんない」
『みんな線の上にいます。一本の線を切り替えるだけで、さまざまのことが変わります』
「そんなすごいことは要らないよ」
『むぅ』
ドライブはうなる。
『無欲なのです』
「貪欲だよ」
ネネは訂正しておく。
「やりたいことは山ほどある。でも、運命変えたいとは思わない」
『後悔しませんか?』
「器屋も言ってたよ。いずれ後悔するって」
『言ってましたけど、ならなぜ運命を変えませんか?』
「説明しづらいけど」
ネネは前置きする。
「後悔も飲み込んでの人生でしょ」
ネネはそう表現してみる。
ドライブはうなずく。
『やっぱりネネは花ですよ』
ネネは照れ笑いをした。


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