ネットの物語


ネネは無駄箱一号の電源を入れる。
ドライブは机の端っこで角砂糖をぽりぽりとしている。
ネネはネットに何かあるかなと思う。
なくてもどうせ暇つぶしだ。
クリックを重ねて、検索をする。
結構大きなニュースのところで、
事故に関しての記事を見つけた。
浅海の町。間違いない。
さすがに事故のことだけで、佐川様に関してはない。
意見を言い合えるところまで見れば、
もしかしたらタミに関しての情報があるかもしれない。
ネネはそこまでするのは、ちょっと怖い。
ネットで大声を上げるのは、
見てるのも、自分がするのも苦手だ。
騒がしいのが苦手なんだろうか。

『どうです?』
ドライブが話しかけてくる。
角砂糖は食べ終わったようだ。
「もっと深いところに行けば、もう情報は出ているかもね」
『深いところ』
「ネットジャンキーの巣窟」
自分も大概ネットに依存しているのに、
何を言ってるのやらとネネは思う。
「ま、とにかく表向きは事故だけだね」
『ジャンキーの巣窟は怖いですか?』
「たいてい匿名だからね。話が混乱する」
ネネは自己主張が苦手だ。
理解できない話をえんえん聞くのも苦手だ。
情報を得るためにもぐるのは、どうも気が引ける。
『ニュースにコメントはついてますか?』
「まだ。立ったばかりみたいだから」
『それでしたら、少し様子見をしまして』
「うん」
『夕方のテレビで出方をみてみては?』
「大きな事故は扱うかもだしね」
『それからなら、もっと表に情報が出るかもです』
「うん、そうする」
ネネは適当にクリックを繰り返す。
芸能人の話、よその国の話、クリックで情報があふれるのに、
自分の気になる情報は、もぐらないとない。
もぐった先では大混乱が起きている気がする。
大声をあげて、実名は多分出さずに、言いあいをしているイメージ。
ネネは苦手だ。
ネネは一通りニュースを見ると、
伸びを一つする。
椅子がギイギイとなる。
『ネネ、ネネ』
ドライブが呼びかけてくる。
『物語を読んでみましょうよ』
「物語?」
『せっかく、ただで、一般の読み物がネットでは出来るのです』
「変なところに知恵をつけているなぁ」
言いながらネネは検索する。
「短編中心がいいかな」
『そうですね』
ネネはキーボードを叩いたり、クリックしたりして、
適当に物語を表示する。
どこの誰とも知らない人の、
大掛かりな短編、しゃれた短編、恋する短編。
さまざまの文字列が行きかう。
『ふむふむ』
ドライブは机の端から短編を見ている。
「おもしろい?」
『とても面白いのです』
「そりゃよかった」
『ネネは?』
「何が面白くて、何が面白くないのかの、線引きが出来ないんだ」
ネネはドライブのほうを見る。
「自分の線を持っていないのかもしれない」
『ネネは線を持っていますよ』
「うーんと、ここまで受け入れられる、ここからは、だめと言う」
『ふむ』
「自分なりの線引きが出来なくて、何を受け入れて面白いとするかがわかんないんだ」
『なるほど』
ドライブはネネの手を辿り、肩に落ち着く。
『なんでも一度受け入れてみると、いいかもしれませんね』
「全部受け入れられるほど心は広くないよ」
『粘土細工師を覚えていますか』
「うん、鈴の人」
ネネは思い出す。
鈴を身にまとった神主のような男。
『粘土細工師のように、心を開いていけばいいのですよ』
「そこまで心は開けない。けど、何を受け入れるかもわからない」
『不安ですね』
「そう、不安なんだ」
ネネは言葉にする。
そう、不安なんだろうと思う。
タミが代価で力をつけているのも不安を煽るし、
匿名の、誰とも知らない、やり取りを見るのも不安だ。
見なければ構わないことが、たくさんあるように思う。
見ても見なくても構わない、でも自己判断で。
ネネはそういうのが苦手だ。

ネネは物語を見る。
相変わらず面白いのかがわからなかった。


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