居場所
ネネは椅子に座って伸びをする。
ぎいぎいと椅子が鳴る。
『においがしますね』
ドライブが角砂糖をカリカリしながら、ネネの頭に語りかける。
「におい?」
『危険なにおいです』
ネネは思い当たる。
辻の家の近くを通ったときも、
ドライブは妙なにおいがしたといっていたような。
「駅前広場で事故があってね」
『イメージを送ってください。言葉より早いと思うのです』
「わかった」
ネネはイメージをする。
ハヤトと鉢合わせして、
駅前広場を歩く。
駅前広場は人ごみがすごくて、
その中に佐川タミがいた。
ネネのもとに大型車が突っ込んでくる。
タミが一言、叫ぶと、大型車は止まる。
ネネは落ち着くまで人ごみから離れて、
そうして帰ってきた。
ネネはそれをイメージして思い出す。
『なるほど』
ドライブは納得したようだ。
「運転手は死んでいたらしいんだ」
ネネは補足する。
『仕組まれた、においがしますね』
「そう思う?」
『なんというか、特別なことを起こしているような気がします』
「起こして」
『大騒ぎを起こして、中心に居座るようなイメージです』
ネネはタミが何かを起しているイメージを持つ。
底知れぬ微笑で操っている。
『タミとかいう人のイメージが、また変わりましたね』
ドライブが言う。
『以前よりネネの中のイメージで、怖くなってます』
「そうか、そうかなぁ」
『無意識で怖い人にしているのかもしれません』
「そうかもしれないなぁ」
『怖かったですか?』
ドライブが語りかける。
「怖かった。これで終わりかと思った」
ネネは大型車が暴走したそのことを思い出す。
身動きが出来なくて、ただ、立ち尽くした。
そこに、タミの叫び。
タミがそれで大型車を止めたとするならば、
タミはネネよりも、いろいろなものを操れるのかもしれない。
代価の力は予想以上なのかもしれない。
何せ家族まるごと、いただいたりしているのだ。
軽い気持ちで邪魔者を代価にしているのもいるかもしれない。
マスコミが事故現場に来ているし、
佐川様というものが全国になる日も近いだろう。
それより前に、断たねばならない。ネネはそう思う。
タミの連鎖を止めなければ、
タミはどんどん代価を得て、膨れ上がる。
それはいけないことだとネネは思う。
誰も救われないような気がして、それはだめだと思う。
代価で膨れ上がったタミは、何を望むだろう。
ネネにはタミが望むものはわからない。
大騒ぎを起こして、その中心に居座る。
中心にいるのはなぜ?
みんなから代価を食って、そこに居座るのはなぜ?
ネネにはわからないが、タミは何かを欲しているのかもしれない。
大きな力がなければ得られないこと。
朝凪の町の占い師は、理の器を欲して、空に行くという。
捻じ曲げることも出来る理。
何を捻じ曲げるのだろう。
「佐川さんや占い師は何を求めているんだろうね」
代価を得ている占い師。
ネネの中では、タミと朝凪の町の占い師は、ほぼ等しいと思っている。
『何かを捻じ曲げたいと思うのです』
そこまではネネでも想像がつく。
だけど、どうしてそこまでしてと思う。
「佐川さんは、何もなくても、いてもいいという、居場所がないのかな」
ネネはつぶやいた。
ネネには家族がいる。
少し過保護かもしれない親だ。
でも、家族のいる場所はあたたかく、とても居心地がいい。
過剰な期待もされずに、
また、見捨てられもせずに、
ネネはこの家族ですくすく育ってきた。
いなかったら、どうなっていただろう。
見捨てられていたら、どうなっていただろう。
何かしらの形で、居場所を捻じ曲げて作ろうとするような、
そんな気がする。
タミがそうとは限らない。
でも、ネネはその考えが離れてくれなかった。
占いがなくてもいいように。
特別なことがなくても、人の鎧でなくても、
そばにいてくれる人がいたら。
ネネはタミのことをそんな風に思った。