もう一度


白い光が世界を包んでから。
あれから、1年程度、時が過ぎた。

テルは、研究所にこもりながら、
あのときのことを思い出す。
白い光が過ぎ去った直後、
テルは恐る恐る目を空け、自分の手を確認した。
傷が癒えている以外は、いたって普通だった。

それから、皆をそれぞれの場所にゼロで送り届け、
そして今…
何も変わらないように世界は回り、
あの時戦った戦友から、テルの元へ手紙が届く。


ラミリアは、竜人の村で、相変わらずオカマを続けているらしい。
男装の麗人のノエルとは、いい夫婦だそうだ。
ゲブラはちょくちょく二人を冷やかしては、
ラブラブの熱気に当てられるらしい。
子どもはどっちが孕むのか、不明だそうだ。

ジャクロウは、エクスの復興をしているらしい。
エクスもいいところだと手紙では言っていた。
ラピュータで、ビナとコクマから教えを得るのに言い合いになったこともあり、
今度、わびにエクス酒を送るとあった。
お前が女だったら結構よかったのにな、と、手紙には追記してあった。
ナンセンスとテルは思った。

ジュリアは、盗賊たちと一緒にいるらしい。
ファナの近くの荒地の盗賊だ。
そんなこともあったな、と、テルは思った。
たまにアージュに行っては、酒を買い込んだり、
盗賊の用心棒として働く毎日だそうだ。
ディーンから、ルナーに来てほしいとの手紙があったらしい。
何のつもりやら、と、手紙は締めくくられていた。

ディーンは、ルナーに月を浮かべたらしい。
リューンを解き放ち、ルナーの闇の衣に浮かべたと。
おかげで、あのあたりは少し明るくなったそうだ。
そして、追記があった。
ジュリアさんを正式に娶りたいと思うのだが、
いい言葉はないだろうか、知恵を求む。
追記には、そうあった。

フェンダーからは、乱暴な字の手紙が来た。
誤字脱字満載だ。
解読したところによると、
ディアンの近衛兵隊長をやめたらしい。
後悔しないと書いてあった。

そして、続きはクライルから来た。
フェンダーは、ラシエルで、
クライルのボディーガードとしてがんばっているらしい。
どこまで警戒したものかわからないが、
あいつに悪意が無いのが余計厄介だ、と。
それから、雪原の礼は告げたが、あいつはわかっていないようだった。
と、クライルの手紙は愚痴っていた。

ケセドからも丁寧な手紙が来た。
先代の水神らしい。
同じく先代の地神、ネツァとラシエルでひっそり暮らしているらしい。
クライルの困った顔を見るのは、
人間らしくて面白いと書いてあった。

ホドというものからの手紙もあった。
先代の風神だそうだ。
あちこち旅してるけど、アージュの酒はうまくなったと、
やっぱり故郷はいいな、などと書いてあった。
ジュリアが結婚するときには、ホド酒をいくつか用意するといいぞ、と、
ジュリアの結婚を見越したような文章もあった。

差出人が、ブラックというものの手紙もあった。
シリンのはずれで剣を教えているらしい。
ゴッドスレイヤーはルナーの右に封じた。
なんだか、暗号めいた手紙だった。

あの時聖地で助けた、
ミシェルという人からも手紙があった。
今、私は生きることで贖罪をしている。
ただ、兄には会えない。
世界に光があるときは、私が生きていると思ってほしい。
私は世界のどこかにいる。

ラピュータから、手紙が届いた。
ラピュータ、コクマ、ビナ、の連名だ。
世界は変わらず回り続けています。
何か得たい知識があったら、ラピュータのビナの部屋まで。
ジャクロウにもよろしく言ってくれ。
そう、あった。


テルは、空を飛ぶ機械を作っている。
アインスの地まで飛んだのはプロトタイプ。
もっとみんなを乗せる、大型のものを開発中だ。
ファナの村からは、相変わらず変人扱いされている。
でも、村の人はほほえましく見守っているようだ。
先日も、村の教会で引き取ったという赤ん坊が、
ヴァーン研究所にやってきた。
どこかで見たことのある面影がある気がした。

物思いにふけりながら、作業をしていると、
手紙が届いた。
「ごくろうさまでーす」
と、テルは返した。
「どれどれ、誰からかな…」
テルは差出人を見ると、目を大きく見開き、
中身も読まずに研究所を駆け出して行った。

彼は本を読んでいた。
昼寝するにもいい程度の午後の昼下がり。
鳥の鳴き声が聞こえる。
茶色の髪が、本の内容がわからないという、苛立ちでくしゃくしゃになる。
彼はため息をついた。
「これでよかったんですね」
その小屋の中にいる、かぼちゃ頭はうなずいた。
「君が望めばそれが答えだ」
彼は、本を置き、遠くを見るようにする。
「いつか、また、世界がおかしくなっても…この世界の人間なら、どうにかしてくれると思うんです」
「そして、世界の大半が、おかしいことに気がつかずに終わってしまうと」
「それでいいと思います」
「時の神は似るらしい」
「それもいいですね」
彼は目を閉じた。

「もう一度、この世界を始めましょう」

風の音に駆け足の足音が混じる。
彼は微笑んだ。
そして、ノックがする。
ココン!と素早く2回。
「ルート!」
「やっぱりテルか」
「やっぱりって何だよ!それより…」

もう一度、はじめよう。
皆がいる、大切なこの世界を。

おしまい


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