次の仕事
「タム、仕事です。グラスルーツ管理室に来てください」
アイビーからの静かな連絡だ。
タムはとりあえず顔をしかめて見せた。
どうせアイビーには見えないだろうし。
お預けをくらったというのは、こういうことなのだろう。
タムはなんとなく、表側の世界の犬とかの気持ちがわかった気がした。
そして、小さな包みに向かって、
「逃げるなよ」
と、意味もなく言ってみる。
タムはひょいとベッドから降り、
次の仕事とやらに思いをはせた。
「さぁて、何するのかな」
エリクシルはなんでも屋だ。
タムにはまだ、何をするのかなんて想像も出来ない。
こっつこっつと靴を鳴らす。
ぶんっと両手を大きく回した。
幼いタムに気迫はないが、
タムなりに気合を入れた。
「いっくぞー!」
タムは走り出した。
扉をあけ、閉め、
アジトの中を風のように走った。
ぎこぎこぎこ
ごとーん、かこーん
いつものアジトのギミックの音。
帰ってきたことに微笑みすら覚えながら、
タムはグラスルーツ管理室を目指した。
大体1階。
奥のほうのグラスルーツ管理室。
タムはそこまで走って急停止して、
扉を叩いた。
「どうぞ」
いつものアイビーの静かな声だ。
タムは促されるままに扉を開けて中に入った。
中には、ネフロスとパキラがいた。
「遅いわねー」
「大方、包みでも開けようとしたんだろうさ」
パキラとネフロスは勝手なことを言っている。
タムはとりあえず顔をしかめた。
図星でもあったからだ。
「そろいましたね」
アイビーが静かに向き直った。
「3人もで、今回は何?」
パキラが切り出す。
「ベアーグラスを覚えている?」
タムはさっぱりだが、ネフロスとパキラは表情を引き締めた。
きょとんとしたタムに、アイビーが静かに説明をした。
「もと、エリクシルのメンバー。今は療養中よ」
「今度はお見舞いですか?」
「そうでもあるけれど…」
アイビーが言葉を区切り、また、話し出す。
「ベアーグラスは、過度の水と害虫にやられているわ。彼女を元気にして欲しいの」
「元気にって…アイビー、わかってるか?俺たちは神様とやらじゃない」
「わかっているわ、だから、タムの元気をベアーグラスに分けてほしいし…」
「それで、俺たちは害虫駆除か」
「そう、害虫駆除と、水の具合を見て」
「生き残れるといいがな」
「ベアーグラスは弱くないはず」
アイビーは静かに言った。
パキラが伸びをした。
ネフロスは立ち上がる。
タムはおろおろする。
「タム」
アイビーは静かにタムに呼びかける。
「あなたの元気を、ベアーグラスに分けてあげて」
タムはわからないが、うなずいた。
「おっけー、それじゃ、いつもの」
パキラが元気よく宣言した。
アイビーは歯車を回した。
奥から袋がレールにつるされてやってきた。
パキラは内容を確認したらしい。
袋を覗いてうなずいた。
「ネフロスにはもう渡したわね」
ネフロスはうなずいた。
「タムには、あれを」
アイビーがまた歯車を回すと、赤い袋がレールにつるされてやってきた。
「これは害虫が今後来なくなる薬。タムはこれを持って行って」
「はい」
タムは元気よく返事した。
タムは赤い袋をズボンの横にぶら下げる。
なんだか冒険に出るみたいな気分になった。
「ベアーグラスがいるのは、雨恵の町、清流通り四番街のはずれ。乾きの治療院に入ってるわ」
「かわきのちりょういん」
タムが復唱する。
「雨恵の町には珍しい治療院なのよ。水が多すぎる症例を扱ってる。そこに害虫…」
パキラがそこまで言って、くりっとした目を細めた。
「ベアーグラス、持つかしら…」
「行くしかないだろう」
ネフロスが歩き出した。
「俺たちは、なんでも屋、エリクシルだ」
タムはネフロスの言葉に、何か感じるところがあった。
覚悟というものに、少し近いかもしれなかった。