春節祭の噂


暦の上で春となり、
ふさぎこんでいた冬から、
少しずつあたたかく変わっていくような季節。
春の始まりの催しとして、
クーロンでは春節祭がある。

御神輿担いで、龍が舞って。
春の力が宿ったかのように、
そのお祭りはにぎやかで楽しい。

さて、春節祭の催し物のひとつとして、
カルタ大会がある。
読み上げられる語句の一番最初の文字の札を取る、
まぁ、シンプルなカルタ遊びだ。
そのカルタ大会にまつわる、噂が、ある。

「カルタの王子様がいる」

カルタの王子様。
それは少し前のサンザイン事件にも登場した、
正体不明の王子様である。
なんでも、稲妻のごときすばやさでカルタを取り、
誰もそのスピードに追いつくことができないという、
伝説の王子様である。
神速のカルタ使い。
人呼んでカルタの王子様。

さて、ところかわって、クーロンの男人街。
熊猫紙征雑貨公司。
パンダと眼鏡のお店だ。
そこで店番をする青年一人。
彼はユックという、店の眼鏡担当の青年だ。
客のいない店の一角で、
札を一枚手にして、もてあそび、
鋭く上にあげ、落ちてくるそれを、すばやく宙から捕まえる。
一連の札を操るすべは、一朝一夕で身につくものではない。
何か特別な修行をしたか、そうでなければチートか。
わかる人が見れば、それほどの速度だ。

ユックは気配を感じる。
札をしまい、いつもの青年としての表情を客に向ける。

「いらっしゃい…なんだ、ハリーか」
「僕じゃだめなのかい?」
「別に」
ユックの態度はそっけない、それは今に始まったことではない。
ハリーはニコニコ笑いながら、
「春節祭楽しみだね」
と、ユックに話しかける。
ユックは軽く無視をする。
「カルタの王子様、やっぱるくるのかなー、たのしみだなー」
「…何が言いたい?」
「んー?カルタの王子様がまた優勝を掻っ攫うんじゃないかなーと」
「知るか」
「楽しみだなー、春節祭」
ハリーはニコニコと、ユックは少し不機嫌で。
「それで、そこに落ちてる札は、やっぱり練習か何か?」
ユックがはっとする。
札が落ちている気配はないはずだ。
じとり、と、ハリーをにらんで、
「ハリー…」
「王子様は、今回も隙がないね、うんうん」
ハリーは納得すると、飄然と店を出て行く。
残されたユックは、大きくため息をつく。

春節祭間近のクーロンにて、
ユックという青年、そして、カルタの王子様のおはなし。


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