まずは小手調べ
春節祭がもうすぐであるところの、ある日。
ユックとパンダ店長の店に、ネジは来ていた。
ネジもカルタ大会には参加する。
店長あたりで練習できればいいなと思っていたところだ。
「店長、いる?」
店を覗き込んで、ネジは声をかける。
「店長ならいないよ、どこいったんだか」
答えたのはユックだ。
「あら、それじゃ出直すかな」
「店長に用事?」
「カルタシングルの相手してもらおうと思って」
カルタシングル。
あとで説明を入れるが、一対一でカルタを取り合うものだ。
この物語の中でだけのシステムだと思って欲しい。
話を続けよう。
「シングルの?」
ユックは聞き返す。
「自信ないから、チームだと足引っ張りそうで」
「ふぅん…」
ユックは意味深につぶやき、ネジを見る。
「なんなら俺が相手してもいいけど?」
「かるたのおう…もごもご、なんでもない」
「何かいいかけた?ネジさん」
「なんでもないよ、うん、ユックさんじきじきに相手してもらっても、ついていけないよ」
「とりあえず練習してみるもんだよ。一戦やってみよう」
ユックは、カルタ台を準備する。
(カルタの王子様相手に勝てるわけないんだけどなぁ…)
と、ネジは思ったが黙っている。
10枚ハンデがあっても、勝てるかどうか。
カルタ台の畳の上、座布団二つ。
シングル専用のものだ。
そこに二人座って、カルタが並べられる。
「手加減無用だよ、ネジさん」
「…うん」
ネジは呼吸を整える。
頭の中でリズムを作る。
(ワン、ツー、スリー、やれるだけやってみるか)
ネジの気配が変わったのを、ユックは感じ取り、その上で不敵な笑みを浮かべる。
『はじめます』
カルタ台が宣言する。
リズムに乗っていくネジはそれなりのスピードを持っている。
だが、そのリズムが一拍でも狂うと弱い。
カルタの札を取りながらも話すことのできるユックに、
ネジのリズムはあっさりおかしくなる。
結局大差をつけて、その一戦が終わる。
「負けたー」
ネジはうなだれる。
完膚なきまでとはよく言ったものだ。
「最初の一文字聞いたら反射すれば、追いつけんじゃないかな」
「えー」
ネジは思う、それはちょっと難しいと。
さすがカルタの王子様といいたいところだが、
一応黙っておくことにした。