祭りの終わり


カルタの王子の優勝で、
春節祭恒例のカルタ大会は幕を閉じた。
やんややんやの大騒ぎがあって、
朝になる頃には、みんな日常に帰っていく。
カルタの王子様という存在が、
鮮烈な記憶と、大きな噂にかえっていく。
祭りのときにだけ現れる、かっこいい神速のカルタの王子様。
それはヒーロー。
みんなが束になってもかなわないヒーロー。
悔しいほどかっこいい、王子様だ。

祭りは終わり、
平凡な日常が帰ってくる。

さて、ところかわって、クーロンの男人街。
熊猫紙征雑貨公司。
パンダと眼鏡のお店だ。
ユックは一人で店番をしていた。
祭りのことを思い出しては、
苦笑いが浮かぶのをおさえられない。
ああまで本気になるこたぁねぇだろうよと、
カルタの王子に、あのときの自分に、
言いたいけれど、そうなったものはしょうがない。

カルタの神様ってものがいるのなら、
早くみんなが忘れてくれますようにと、
噂を大きくしないでくださいと、
俺のハードルあげないでくださいと、
ユックの願いたいことは山ほど。

それでも。
カルタ大会がまたあったりしたら、
したら、俺、どうすればいいだろう。
ポケットから取り出す、練習用の古びた札。
無造作に上に投げ、落ちてくるそれを無造作につかむ。
ひとつ、拍手が聞こえる。
振り返ると、ハリーが拍手しながらニヤニヤと笑っている。
「さっすがだねー。来年に向けて?」
ユックはとりあえず無視。
「中継見てたよ」
「…中継?」
「うん、カルタ大会、ネット番組の中継してたんだよ」
「てことは…」

カルタの王子の雄姿はあの場を越えて広大なネットまで。
ユックは少しばかり愕然とする。
「お店の宣伝とかしておけばよかったんじゃない?」
「正体ばれるだろうが」
ハリーはくすくす笑う。
「まぁいいや、来年も出るんでしょ?」
「わかんねーな」
そう言っているが、ハリーはなんとなく、
上げられたハードルを越えに、
ユックはまたカルタの王子様になるような気がした。

「おや、お客のようだよ」
「はーい、いらっしゃいませー」
ユックは気のない返事をする。
これも日常。
そして、カルタの王子様へのファンレターやなんかが届いて、
俺の静かな日常を返せーっと、ユックが心で叫ぶのも、
しばらくの間の、日常。

思いがけないヒーローが、
あなたの隣にいるかもしれない。

おしまい


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