献身的な彼女


グリフォンを追い返したルルは、
くたりと座り込んでしまった。
「ルルさん!」
サンダーと呼ばれた老人が駆けよって支える。
「無理もない」
ムダヅカインも手伝う。
「無理もないとは?あなたは一体?」
「私はムダヅカインといいます」
ムダヅカインは、ルルに起きた状況を、
かいつまんで説明する。
ルルには、けがれなきゼニーの力があり、
それを解放したことで力が抜けている。
訓練すれば、世界を変える勇者にもなれると。
おそらくは、ゼニーの力の解放自体が初めてのことだろうから、
望むならば、ムダヅカインが訓練の指導をしてもいいと。
そういったことを説明する。

「けがれなきゼニーの力、ですか」
「そう、その力が、世界を変えるかもしれない」
サンダーはうなずく。
音声を担当していたエノは、まだ事態を把握できていない。
「…私に、力が?」
ルルは支えられたまま、顔を起こす。
その目には、力を持ったものの光。
ムダヅカインはうなずく。
「ルル、ともに戦ってくれるか」
ルルはしっかりうなずいた。

彼等はサンダーがマスターをしている飯店に行く。
飯店に帰ってくるなり、
奥から白い服を着た女性が駆け出してきた。
「ルルさん!どうしたの!」
「たいしたことじゃないわ。多分」
「多分って何ですか!」
女性は、保険はかけてあったはずとか、
買い置きの薬はどれがあったはずとか、
まずは介抱しなくちゃとか、
ありとあらゆる心配事をしつくす。
「ワガさん、大丈夫ですよ」
サンダーはワガの暴走をやんわり止める。
「でも…転ばぬ先の杖って言うじゃないですか」
「あなたは心配のために、お金を使いすぎます」
「何かあってからでは遅いんです、ルルさんもみんなも」
「そうですね」
「だから、自分のできる範囲でみんなを守れたらって…」
ワガはうつむいてしまう。
サンダーはワガの頭をなで、
ルルは椅子に座って、エノが運んできた水を飲む。

ムダヅカインはその様子を見て、肌で感じた。
けがれなきゼニーの力、ここにも。
献身的に金を使う、
やさしいゼニーの力だ。

「ワガさんといったね」
ムダヅカインは声をかける。
「ともに世界を変えてみないか?」
ワガはきょとんとしている。
まだ、サンザインとしての自覚のない、
二人目の勇者。


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