セレブと教授


美女がいる。
モデルのような美女で、
着こなしているファッションもセンスがよく、
隙のひとかけらもない。
美女はじっと服を見ている。
それは、店の自慢の一品だという服だ。
「マナト様、いかがでしょうか」
マナトと呼ばれた美女は、じっと服を見て、
そのあと、店を見回す。
優雅に指をさして、
「ここからここまで、全部頂戴」
マナトはそう宣言する。

マナトが店から出てくると、
そこには見知った顔があった。
「教授」
「やぁ」
教授と呼ばれたプロヴィニは軽く片手を上げる。
美男美女、それは絵になる光景だ。
「どうしたの?荷物ならないわよ」
「荷物は全部届けてもらうんだったね」
「いつものことよ」
「君ならば荷物持ちになる男もいそうなものだけどね」
「面倒なだけよ」
マナトはそういって、髪をかきあげる。
実にさまになる。

「サンザインを知っているかな」
「…ああ、ブラックがいけ好かないアレね」
「ひどいな」
プロヴィニは困った顔をする。
マナトは微笑む。
「どこかの教授みたいに、いけ好かない人」
「それになって欲しいといわれたら、君はどうする?」
マナトはきょとんとして、
次いで笑い出す。
「冗談よして」
「冗談じゃなく、言ってるんだ」
「ふぅん?」
「とりあえず、これを渡しておくよ」
プロヴィニは、マナトの手をとり、
そっとコインを手に置く。
「これでサンザインゴールドになれる」
「教授みたいに変身するの?」
「そう、ピンチになったら来てくれるといいね」
「来ないかもしれないわよ」
「いや、君なら来るね」
プロヴィニは微笑む。
見透かしたように。
「退屈しているんだろう」
「退屈って…」
「ちょっと暴れても、問題ないから」
「あたしを何だと思っているの、教授」
「暇と金をもてあましたセレブ」
さらりとプロヴィニは言ってのけて、
「…ああ、美女というのを忘れていたよ」
わざとらしく付け足す。

プロヴィニとそのあと少しやり取りをして、
マナトはコインを結局捨てられないでいる。
「サンザインゴールド…か」
ピンチのときにだけあらわれる。
なんておいしい役どころ。
マナトの灰色の退屈が、
金色に輝いて流れ出すのを感じる。
「せいぜいピンチになりなさい」
そしたら助けてあげるから。
マナトはコインを握り、笑みを浮かべた。


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