なんとかの王子様
『熊猫紙征雑貨公司。あなたのおそばにパンダと眼鏡を』
そんな意味の言葉が、ラジオから流れる。
一人の青年が、店の掃除をしている。
ラジオは音楽を流すものに切り替わり、
静かな時間が流れている。
彼はユックという。
眼鏡のよく似合う、細身の青年だ。
ユックは、先ほどハリーから連絡があったことを思い出す。
「何だよサンザインって」
ユックはぼやく。
「関係ない関係ない」
面倒ごとに突っ込むのはごめんだ。
それよりも、引っかかることがある。
「…王子様って言ってたよな」
ハリーは電話口で確かにそう言っていた。
もしやとユックは思うが、思い直す。
まさか、そう、まさかのことだと。
そう思って、ユックは店番に戻る。
端末に着信。
独特の着信音。
これは、サンザインがピンチのときに流れるものだ。
「…ちっ」
ユックは舌打ちする。
なんだかよくわからない戦隊だけれども、
散財してくれなくちゃ、店も儲からない。
「店のため、だからな」
そう、サンザインを助けるのは、店のため。
だからユックは店を飛び出す。
サンザインは窮地に陥っていた。
サンザイン自身も強くなってきているが、
シッソケンヤーク側も強化をしているらしい。
(店のため)
彼はつぶやき、仮面をつける。
そして、己の感情のたがをはずす。
カルタを手にして、
シッソケンヤーク側の魔人に向けて、鋭く投げる。
カルタは地に刺さり、
魔人は彼のほうを向く。
「なにやつ!」
「カルタの王子様とでも、覚えていてもらおうか」
カルタの王子は、高いところから飛び降り、
サンザインをかばうように、立つ。
「最近邪魔をする王子とは、お前のことか」
「まぁな、散財してくれないと困るんだ」
「サンザインより前に、お前を始末してくれる!」
名も知らぬ魔人が攻撃してくる。
カルタの王子は、華麗にかわし、
鋭い攻撃を放つ。
魔人に隙ができる。
「サンザイン!いまだ!」
隙を逃さず、サンザインは必殺技を放つ。
魔人が倒されたそこに、
もう、カルタの王子の姿はなかった。
「カルタの王子、一体何者…」
サンザインレッドがつぶやく。
ユックは店に戻ってくる。
(店のため店のため)
面倒だけれど店のため。
カルタの王子なんて恥ずかしい真似も、
全部店のためなんだと、
ユックはぐるぐると念じていた。