準備も祭り
青空の下。
結婚するカップルのための、
準備が進んでいた。
新郎はヘキ。
言わずと知れた、サンザインレッドだ。
新婦はムギという、物静かな女性だ。
着々と結婚式の準備が整っていく。
団長としてのツテ、
あるいは、サンザインの仲間。
みんながこうしてお祭りにしてくれる。
誇らしくも思うし、
これがゼニーを越えた力かもしれないとも思う。
言葉にすると安っぽくなるから言えないけれど、
愛とか友情とか信頼とか、
そういうものをサンザインになってから得たというのは、
ある種の皮肉だろうか。
「団長」
振り返ると、ラクがいる。
「サンザインの手伝いをしたいって、また何人か来ましたよ」
「準備も祭りだ、みんなでやろう」
「ええ、そうですね」
ラクは微笑む。準備に戻ろうとして、振り返る。
「あとそうだ」
「まだ何かあるのか」
「ムギさんが、さびしがっていましたよ」
「それを先に言え!」
言うと同時に、ヘキは走り出す。
無論、ムギの居場所へ。
ラクはそれを見送って、ひとしきり笑った。
「ムギ!」
ヘキは息を切らしてムギの元へ駆けつける。
ムギは不思議そうな顔をして、ヘキを見る。
「どうしたの?」
「いや、お前が、さびしがっているって」
ムギは思い当たる節がないらしい。
「……あんのやろう…」
騙されたと知り、ヘキの頭に血が上る。
今にも喧嘩を売りに行きそうなヘキの服の端っこを、
ムギはぎゅっと握った。
「ムギ…」
「さびしいのはホントだから」
「ああ…うん、すまん」
ムギはヘキをじっと見つめる。
言葉にならないけれど、伝わる気持ち。
ヘキは見つめ返し、
抱きしめようと…
「サンザインのリーダーはここですかぁ?」
大きな声がいきなりかけられて、
雰囲気も何も粉砕された。
「はじめましてー、僕はグリグリって言いますー」
「僕はヨシロクって言います。ヨロシクじゃないです」
「でも、ヨロシクを言いに来たんですー」
「うん、リーダーに声をかけた方がいいって言われて」
グリグリという大きな声の男は、太った身体をしている。
ヨシロクと名乗る男の目は、どこか人形のようにも見える。
「まて、誰が声をかけた方がいいって?」
ヘキはそこが引っかかる。
「ラクさんっていったっけ、あの人…」
「あんのやろう!」
今度こそヘキは止まらない。
手伝いに来た二人を無視して、駆け出す。
ムギはそれを、まぶしそうに見ていた。