少しの平穏
世界は回る。
ヒーローがいたことも思い出にされて、回る。
朝がきて夜がきて、
いつもと同じように回る。
それは穏やかな日常。
ヒーロー達のつかの間の休息。
世界は表面上、バランスを保っているように見える。
あるべきところに物は流通され、
手に入れるべきものが消費する。
その流れはきちんとしていて、
ゼニーの力がめぐっているように見える。
リュー・ツー・イモは、ビルの屋上で思索にふけっていた。
なんだろう、この不自然なまでの平穏は。
何かが欠けている。
欠けたまま回り続けるものは、やがて破綻する。
流通の賢者のイモは、それを敏感に感じ取る。
セイ・サーン・チンは動き始めているのだろうか。
彼は生産の賢者。
物を作ることを伝える賢者。
彼の動向がまだ伝わってきていない。
イモは不安になる。
「とにかく、セイ・サーン・チンが覚醒していればいいが…」
イモはそのときふと、別の可能性を考える。
セイサンの賢者が、
清算の賢者となる可能性。
それは、すべての借金をも綺麗さっぱりさせてしまう、
いわゆる恐ろしい最終兵器としての能力だ。
生産なくしての清算は、
この世界から生まれるものがなくなることを意味している。
セイサンの能力も曲げる可能性を持つもの。
あるいは、あの時生じたガタリと名乗るものが、
それだけのことをする可能性。
生産の途絶えた世界は、何もかもが作られなくなる。
流通に乗ることもなくなり、消費されることもない。
ゼニーの力が意味をなくしてしまう世界。
信頼も何もかもが失われてしまう世界。
生きているけれど死んだ世界になってしまう。
「まずいな」
イモはつぶやく。
可能性を考えるだけで焦りが生じる。
でも、考えないわけにはいかない。
賢者というものはそうやって考えたことを伝えていくものであるし、
何よりも行動して、手本になるものだ。
「立ち止まるわけには行かぬ」
得体の知れないガタリが何を考えているかはわからない。
イモは流れるものの賢者、
流通の賢者。
また、流れを作らねばなるまいと、イモは思う。
あるべき場所にあるべき流れを。
それは信じる心に満ちたものでなければならない。
紛い物であってはならない。
ゼニーの力を持った若者達。
彼らの力がまだ必要だとイモは感じる。
世界が破綻してしまう前に。
経済の龍が死んでしまう前に。
イモは突風に乗る。
動き出さなければ何も始まらない。
どんなことだってそうだ。