忘れ物


そして彼らは日常にかえる。
出来て間もないクーロンの町の住民に戻る。

物が消える騒動もこうして一段落して、
住民は物つくりの情熱を、
存分に発揮できるようになる。
作られたものは流通して、
誰かが買う。
誰かが散財をする。
散財単体では成立しない。
そこには、作り手の思いがあり、
受け止める消費者との信頼がある。

小さなクーロンという町。
平和なこの町に、
サンザインプロトという戦士がいた。
戦士の熱い思いはクーロンに根付き、
やがて、プロトタイプでない戦士が登場することになる。

話を転じて、
場面は誰もいない広場。
風に吹かれて、広場はお祭りが終わったあとのように、さびしくもある。
そこに転がっている、コインが3つ。
彼らの忘れ物だ。
コインの意識はクーロンの静けさの中に、
確かな可能性を感じた。
この町は、すばらしい町になると。

帰ろう、クーロンの流れの中に。
生み出されたときのように、静かに帰ろう。

コインはさらさらとくずれ、
クーロンの町の風に流されて、
町にとけるように消えた。
まだ未熟なクーロンという町。
何もかもがこれから。
未来はいつも輝いているばかりじゃないけれど、
輝かせるのは心ひとつ。
どんな悪者にも負けない町にも出来るはず。

いつか新しい人が来たら、
「ようこそ」と、迎えよう。
いつか誰かが帰ってきたら、
「おかえり」と、迎えよう。
いつか誰かが旅立つことがあったら、
「いってらっしゃい」と、見送ろう。
そうして町はあり続ける。
静かに生きつづけるように。

クーロンはものすごくにぎわっている町ではない。
けれど、クーロンにはもしかしたら、
誰かが忘れている何かがあるかもしれない。
物を作る原動力の何か、
ヒーローになるための何か、
捨ててしまった懐かしい何か、
笑顔になるための何か。
そういうものが詰め込まれている、
忘れ物だらけの町だ。

あなたの忘れ物もあるかもしれない。
路地の曲がりくねった迷路みたいな、この町で、
古臭いヒーローが走っていくのを見るかもしれない。
追っていけば、きっと何か見つかる。

あなただけの物語が、見つかるかもしれない。

おしまい


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