君は天使の彫られた扉のノブを回し、手前に引いて開けた…と、
「わぁっ!」
という声とともに、誰かが後ろ向きに倒れた。
あわてて君はその誰かを支えた。
「びっくりしたなぁ…」
どうやらその人は、扉に寄りかかっていたらしい。
唐突に扉が開いたので、そのまま倒れ込んでしまったのだろう。
「開ける時は注意してよ…僕みたいなのもいるんだから…」
君は取り合えず不注意をわびた。
「まぁ、教会の開かずの扉が開いた瞬間を見れただけでも、儲かったかもね…」
ふふん、とその人は笑った。
少年のようでもあり、少女のようでもあった。
赤いバンダナを頭に巻き、帽子のようにしている。
服は上下ともジーンズだ。
「アキ!なにしてんだ!」
アキという呼び掛けにその人は反応し、
「ごめん、今行くから!」
バイバイと、アキは手を振り、石畳をかけていった。
アキがいなくなって、君ははじめて扉の向こうの風景をしみじみと見た。
同じ色の暖色系の屋根、敷き詰められた石畳。
素材が同じなのに、どこか個性的なとおりの家々、建物達。
抜けるほど青い空に、心地よい風…
明らかに斜陽街とは違っていた。
扉屋の老人が顔を上げた。
「あまり開けっ放しにするな、木屑が飛んでかなわん…」
君は扉を閉めた。
空間を繋ぐという事は、こういう事なのだろうか?
「悪いが、他の扉も開けてはくれんか?」
さて、どれを開けたものだろう?
玉虫色の扉
重そうな鉄の扉