サンカク写真館
サンカクおじいさんは、写真屋という旧時代の職についている。
サンカク写真館。
写真という媒体にして、人の姿を残す技術。
天狼星の町では、ものめずらしい技術の一つとして、
あくまで旧時代のものとして、
サンカク写真館はひっそりとある。
サンカク写真館を訪れるのは、姿を残したいと願う人々。
生まれた子ども、記念日、結婚、
いろいろな姿をサンカクはとり続けてきた。
それは幸せだったり不幸せだったり。
サンカクは問わない。
でも、写真に残す。
今という一瞬を、サンカクは切り取る。
サンカクは、今まで写真館に訪れたすべての人の写真を残している。
撮影場所でないところには、所狭しと写真が並んでいる。
大きな天狼星の町に住むほぼすべての人々が、
写真館のどこかには並んでいる。
そして、サンカクの頭の中にも焼きついている。
大切な思い出として、お客以上に深い何かの感情と一緒に。
サンカクには孫娘のマルがいる。
マルも写真に興味を持ち、
若いながらも写真家気取りであちこちの写真を撮っている。
古臭い写真という技術は、マルにも受け継がれていくかもしれない。
サンカクはそのことを喜ばしく思い、
マルを甘やかしている次第だ。
マルは様々のものをとにかく撮ってみる。
サンカクはその写真の数々を、マルに内緒で保存している。
天狼星の町の、マルの見ているもの。
サンカクが見えなくなった、みずみずしい景色。
一瞬を切り取り続けてきたサンカクの限界を超えた写真。
マルはいとも簡単にサンカクの限界を超えるように見える。
マルは無邪気で、マルはためらいなく写真に残す。
サンカクは何よりもまぶしく、マルを見つめている。
マルは、ガラクタからの連絡があり、
新種の植物の写真を撮りに出かけている。
図鑑にするのなら、やっぱり写真がないとおさまらない。
ガラクタもまた、マルの写真に魅力を見出しているのかもしれない。
サンカクは血色の悪いガラクタを思い出す。
ガラクタの目は、マルの目と同じくらい、澄んでいる。
あの目がいろんなものを見つけるのだ。
天狼星の町にたまにいる、澄んだ目の住人。
サンカクは、写真以上に美しいものも、知っている。