まとまらない


クロックは走っている。
クロックは焦っていた。
チャイがどんどん物事を進めてしまうことに、焦りを感じていた。
権力が握られることに対してでなく、
ただ、また何かを失うような予感。
オトギのときのように、いなくなってしまうのではないかという予感。
それがどうしようもなく、クロックを焦らせる。
「チャイ……」
クロックはつぶやき、決める。
チャイの真意を問いたださないといけない。
一体どこに向かおうとしているのか。

痛みを引き受けて、真っ先に飛び込むもの。
オトギがその役を買って出ていた頃を思い出す。
老頭になって、彼らは誰も痛まない方法を模索していた。
なのに、今になって。
チャイはどこに行こうとしている。
タケトリもクロックも、蚊帳の外にして、どこに向かおうとしている。
「クロック」
走るクロックに、控えめな声がかかる。
クロックは立ち止まる。立ち止まる時間も惜しいのだけれど。
相手はタケトリだ。
「君もかい?」
「ああ、納得がいかない」
クロックは答える。
「クロックは正直だ」
いつもと同じように、穏やかに話すタケトリ。
でも、みんな知っている。
その記憶の中にはいつもオトギがいる。
タケトリもまた、痛みを引き受けんとがんばっているのだ。
たとえ痛みに耐えられないとしても。
クロックはそこに思い当たる。
タケトリやクロックでは、痛みに耐えられないと、チャイは踏んだのだろうか。

クロックは無性に悔しい思いを持つ。
それは、クロック自身の力の不足から来るものかもしれない。
チャイも失うのだろうか。
痛みに連れて行かれてしまうのだろうか。
何かを叩きたいような、わめきたくなるような、
違法電波を受信したかのような、ありえない感覚。

「クロック」
タケトリが苦しそうに呼ぶ。
「なんだか電波の具合がよくないと報告があったよ」
「……そうなのか?」
「きっとみんな電波の具合でおかしくなっているんだ」
クロックは考えをめぐらせようとする。
それなのに、激しい感じが乱していってまとまらない。
こういうときほど、まとめて決断しなければいけないのに。

クロックはうつむく。
悲しいほど、あの頃と変わっていないことを痛感して。


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