水の底のように
サカナ大佐は部屋で思いにふける。
丸い目を、色つき眼鏡で隠したまま。
大きな椅子に腰掛け、天井を見るような動きをする。
針金細工の吊り飾りが、静かに下がっている。
空調が効いていて、その風に合わせて、
針金細工は静かに回る。
ここは戦艦ミノカサゴのサカナの自室。
命令が下るのを見越して、
サカナはここにいる。
遠からず命令が下る。
それは、天狼星の町を壊すのか。
あるいは、先遣部隊だけを派遣しろということなのか。
サカナはどっちでもよかった。
ただ、サカナはとある情報筋から、噂を流した。
電鬼らしいその存在は、
サカナの意図を読み取って笑ったというのを覚えている。
「サクラ」
サカナはつぶやく。
風に揺れ、針金細工がちりんとなる。
サカナは、サクラというその存在に、情報を流した。
天狼星の町に発生したらしい、
とある存在を国は求めている。
その存在を渡せば、国は多分引き下がると。
サカナは具体的なことは伏せた。
サクラが笑っていたのを、サカナは思い出す。
存在だけの存在。
肉体のない、電鬼らしいもの。
そもそも、ちゃんと存在していたのか。
サカナにとってはそれすら怪しい。
あの町は一体なんなのだろう。
サカナは思いにふける。
痛みを飲み込み、サカナの手をとらないオトギがいたところ。
そして、何かわけのわからない存在が生じたところ。
その得体の知れない存在を、国は欲している。
空調の風が静かに、針金細工を揺らす。
水の底のように静かな空間。
オトギを招くべきか。
サカナはオトギとの距離感がわからない。
笑ってみているべきか、手を差し伸べるべきか。
少なくとも一緒に痛むべきではない。
オトギはそんなことを望んでいるわけではないと、
サカナはそう思っている。
サクラ。
あれは一体なんだったのだろう。
幻というならばそれに近かった気がするし、
電波に乗って接続した、何か悪いものと思えないこともない。
何にとっての悪?
サカナはそれすらわからない。
戦艦ミノカサゴの一室は静かに。
針金細工の模型は、水の底のような部屋を、泳ぐように、飛ぶように。