告げる言葉
日に日に、天狼星の町はぴりぴりしていく。
電波がおかしくなったのだろうか。
そうだとしても、ウゲツはそれだけでないことも知っている。
磁気掃除をして、ネココを乗せて磁転車を駆る。
その間に、噂らしいものが意思を持っているようにまとわりつく。
ウゲツは糸目を不快そうにしかめる。
後ろにいるネココは気がついただろうか。
多分あちこちに伝わっているのは、
ネココを差し出せば天狼星の町が助かるということ。
ウゲツは噂の質をそんな風に感じている。
だから、悔しい。
そう、悔しいのだ。
大きなものに逆らえないウゲツ自身が、一番悔しい。
磁気掃除をして、ウゲツとネココは部屋に帰ってくる。
いつものようにネココがきゃっきゃとはしゃがないのを、
ウゲツは気がついていない。
磁転車を止め、二人は降りる。
「ウゲツ」
ネココはウゲツの背に声をかける。
ウゲツは一瞬立ち止まる。
そして、その先を言わせないように言葉を紡げたらと思う。
ウゲツは振り返る。
潤んだ目をしたネココが、そこにはいる。
「ネココ、あの」
「あたしが、いなくなればいいの、かな?」
ウゲツは精一杯否定をする。
「違う、ネココ。違うんだ」
「んーん、わかってるんだ」
ネココが精一杯の笑み。それは痛々しいほど。
「あたし、なんか違うみたいだし」
「ネココはネココだよ」
「んーん、なんか、違うのわかってた」
ウゲツは思う。
噂を立てていた連中を片っ端から殴りたいと。
ネココを否定するようなやつらを、まとめて全部。
ウゲツがはじめて覚えた怒り。
矛先は、爆発すればすべてを壊すような勢いで。
「ウゲツ」
ネココはやわらかく、告げる。
「あたし、いくよ」
「ネココ……」
大粒の涙が、ひとつふたつとこぼれる。
ウゲツはそれも捕まえきれない。
行くということ、それが何を意味しているか、知らないウゲツではない。
「ウゲツが雇い主でよかったよ」
「ネココ!」
ウゲツは告げる。精一杯のウゲツの言葉を。
「必ず取り返しに行く!君を!」
ネココの笑顔。
信じきっている笑顔が、ウゲツには痛かった。