首飾り


ウゲツは取り返しに行くと、誓った。
誓い。告げた言葉。
それは実行しないといけない。
ウゲツの中でそれは、何か大きなものに対する挑戦状になり、
予告であり、あるいは、もっと純粋なものになる。
「ウゲツ」
ネココが涙目で微笑む。
「約束だよ」
ウゲツはうなずく。
「約束。取り返しに、行くよ」
「うん、雇い主はウゲツだもの。ウゲツがこなくちゃ」
「雇い主」
「うん、ネココの雇い主はいつまでもウゲツだから」
ウゲツは複雑な気持ちを持つ。
こんなときになってまで、お嫁さんのことを考えていたことが、
棘のようにちくちくするとは思っていなかった。
「雇い主、だから」
ネココは繰り返す。その言葉はちょっとだけ、小さな傷のようにうずく。
「うん、そう、だね」
「ウゲツ?」
「なんでもないよ。なんでも」
ウゲツは笑みを浮かべることに専念する。
信じているネココに、これ以上不安にさせるような、おかしなことを言ってはいけない。
ウゲツの糸目は、幸いに表情が読みにくい。
笑顔に専念すれば、ネココも安心してくれるはず、
ウゲツはそう読んでいた。
違った。

「ウゲツ」
「うん?」
「変な顔」
「そう、かな?」
ウゲツは困る。
「ウゲツが元気になるおまじない」
「おまじない?」
ウゲツが聞き返すと、ネココは首飾りを無造作にはずす。
ウゲツの指をネココはゆっくり手にして、
その手に首飾りを握らせる。
ウゲツの手と、ネココの手が、ともに首飾りを握る。
「これは…」
ネココはふるふると頭を振る。
そして、ウゲツから手をそっと名残惜しげに離すと、
そのまま後ろも見ずに走り出した。
ネココがカミカゼらしい人影につかまったか保護されたかが、視界の先で見える。

別れの言葉もない。
別れないからと信じているのか。
この首飾りは、元気になるおまじないだという。
ウゲツは手を開き、首飾りを確認する。
小さな石ころらしいもののついた首飾り。
こんなもので元気になるものか。
ウゲツは思う。

元気になるのは、ネココの笑顔だよ。
だから、これは返さなくちゃ。
それはウゲツの決定事項になった。


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