ウゲツの暴走
うるさい闇。
ウゲツはそんなことを思った。
ウゲツは戦艦ミノカサゴの鰭、その下の面に当たるところにいる。
足は鰭についている。
ミノカサゴの中は大騒ぎをしているらしい。
ウゲツは足が重力を無視していることを感じる。
どの方向にいっても、ウゲツは落ちることを知らない。
それは、何の力だろうか。
サクラだろうか。
空は風が強いなとウゲツは感じる。
ミノカサゴの鰭の下で、さかさまになりながら、そんなことを感じる。
「いたぞ!」
ミノカサゴの中から、兵士の声がした。
ウゲツは思いっきり走る。
いつも磁転車で走っていたその感覚で、
今度はさかさまになって、ミノカサゴの鰭から、走る。
跳躍する。重力を無視して。
兵士は銃を構え、混乱している。
ウゲツの次の動きが予測できないのかもしれない。
幾人も窓のほうに押し寄せて、混乱しているのがありありとわかる。
ウゲツは笑う。不敵に笑う。
どこから切り崩してやろう。
窓をぶっ壊してやろう。
間抜け面した奴を殴ってやろう。
ウゲツの凶暴な衝動は、加速していく。
このでかい図体の戦艦を落としてやりたい、
みんなみんなぶっ壊してやりたい。
ウゲツは、衝動のままに鰭から駆け上がると、窓を体当たりで壊して進入。
兵士から手近な武器を奪った。
使い方はわからないけれど、殴る分には不自由ないもののようだ。
窓の辺りにいる兵士を、武器らしいそれで殴り、蹴り、戦艦の中を駆け出す。
頭の中のサクラが方向を指示する。
ネココの名前がそのときに出てきて、ウゲツは少しだけ冷静になった。
今の姿をネココが見たらどう思うだろうか。
雇い主として、恥ずかしい真似はしたくないと、ウゲツは思った。
でも、なんだか止まらない。
壊してやりたい、何もかも、ばらばらにしてやりたい。
ウゲツの内側の一線を、多分ネココが守っていてくれている。
どんなにウゲツが暴走しても、ネココの記憶がウゲツを守っていてくれている。
助けに来たんじゃない、
ただ、いろいろなものに逆らいたかっただけかもしれない。
そして、誰に反対されても、
君が欲しいだけかもしれない。
兵士の影が見える。
ウゲツは、武器を構えて、走る。
混乱の只中だけど、走る。