磁石のない少女
サカナ大佐は、自室にネココを連れてきていた。
ネココは一言もしゃべらない。
目も閉じたままなのが気にかかる。
これが本当に兵器なのだろうかと、サカナ大佐は思う。
磁気をもって制御ができる兵器。
その磁気を失っている。
一級永久磁石は、今、この兵器の少女にない。
これは、電鬼とされる、正体がわかりにくい、人でないもの。
人でなければこの少女はなんだと、サカナは思う。
見た目は人だ、けれど、ひとたび牙をむけば、
町の一つ二つ混乱、いや、壊滅ができる計算にはなっている。
計算上では、だ。
その計算は、制御ができるという前提のもと。
ならば、今、ミノカサゴのこの部屋は、どこよりも危険にさらされている。
地上の電波が届かないのが救いか。
磁気のない部屋で、ネココという少女は、不気味なほどに黙っている。
「こわいかのぅ」
少女が口を開いた。
「作ったものに、おびえるのは情けないのぅ」
少女が目を開ける。
サカナを認め、にやりと笑う。
「今なら、ぬしらもみんな灰燼にできるぞ」
これは地上の印象と違う。
サカナは思う。汗が伝う。
これは本当に人でない。
灰燼にできるというのも、嘘ではない。
「わしがぬしらに猶予をやったのだぞ、勘違いするな」
「……そうだな、ミノカサゴの中では、制御ができない」
サカナは認めることにする。
少女はからから笑う。
「そうだ、認めるのがいい。磁石がなければ町もこの船もみんな吹き飛ぶ」
「そうだな、正直逃げたいな」
「臆病者め、お前はウゲツ以下じゃ」
「ウゲツ……?」
「この船に乗り込んできた阿呆だぞ。それも知らぬ阿呆め」
少女は馬鹿にした態度を取る。
確かに戦艦の中が騒がしい。
この高度に侵入者があるとは思っていなかった。
「飛んできたのだのぅ、阿呆はよく飛ぶ」
少女は笑う。にやにやと。
「ウゲツは磁石を持っている、わしに返すと思い込んでな」
「……なぜそれを教える?」
「ウゲツから奪えないと、確信しているからじゃ」
少女は笑う。
「空のウゲツは強いぞ、ぬしらではかなうまい」
ようやく、侵入者の警報がなる。
「遅いのぅ」
のんきに言う少女は、
今にも破裂しそうな爆発物に似た気配をまとっていた。
サカナに嫌な汗が伝う。
少女はおかしそうに、くくっと笑った。