02
良否
斜陽街一番街。
酒屋はいつものように営業している。
酒屋の主人は、へんてこな関西弁を使う男で、
弟子が一人いる。
弟子は最近少しずつ酒を作る腕を磨いており、
酒屋の主人は、そんな弟子の成長を見守っている。
酒を作る方法。
斜陽街ではよく知れ渡っているが、
場所に残った思いを、酒瓶にくゆらせて酒にするのだ。
血筋なのか技術なのかはわからないが、
斜陽街以外で聞かないところからすると、
ちょっと変わった能力ではあるらしい。
今日は弟子がどこかへ酒作りに出かけている。
扉屋に行けば大抵どこかとはつながっている。
あとは良質の酒が作れそうな場所の予感。
それさえあれば失敗はしないし、
もう、弟子は半人前以上には成長しているかと、
酒屋の主人は思う。
店の前を軽く掃除。
並べられている酒瓶を掃除。
すっきりしたところで、水を飲むように酒を飲む。
売り物ではないが、
貴重というわけでもない。
それこそ水のようにあふれる思いから作られた酒。
「ただいまー」
弟子が重たそうに風呂敷を担いで帰ってくる。
「おう、帰ったか」
「はい、いっぱい作ってきました」
「数こなすのもええけどな、質もよくないとあかんで」
「わかってますけど、とにかく夢中で」
「まぁええわ。どれからいく?」
「ええと…」
弟子は風呂敷包みを下ろし、
酒瓶を並べだす。
多いもの少ないものいろいろな色。
どれも酒屋の主人に成果を見てもらうための、
良否を判断してもらうための、
弟子の全力投球なのだろう。
酒屋の主人は思う。
この弟子は隠し事ができないし、
とても素直だと。
だから、きっと、
弟子自身が感じるもの以上の味を、いずれ作り出せるような、
そんな成長をする。そんな気がする。
酒屋の主人は、一口、弟子の作品を飲んだ。
夢心地のような、それを覚まさせるような、
不思議な味がした。
「悪くないな」
酒屋の主人は素直にそう言った。