06
鬼狩
これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
その世界には鬼がいる。
人に似た姿で、角が生えている。
力は強く、長寿で、
その姿は美しく、
人をたぶらかすことがある、魔性の存在だ。
その世界には戦士がいる。
鬼を狩り、人を安心させるための戦士が、
職業として存在している。
武器は、おおむねが刀。
そろいの和装で、なおかつ軽装だ。
重い武具など、鬼の前では役に立たない。
一撃か、死か。
そうやって戦士たちの装備や技術は磨かれていった。
アキはそんな戦士の中の一人だ。
アキは少女だ。
大きな、背丈ほどの剣を使う、
戦士の中では異端の存在だ。
アキは、いわゆる戦士の血筋の生まれで、
小さい頃から、鬼を狩るべしと教えられて育った。
アキに恐れはない。
アキは少女でも、立派な戦士に育っていた。
剣の腕は確かに戦士だ。
それでもアキはまだ、恋も知らない少女だ。
鬼を狩ること。
鬼を狩れなかったら、アキは死ぬ。
鬼に殺される。
鬼とはどんなものだろう。
たぶらかされるとは、どういうことだろう。
アキはまだ見ぬ鬼に、想像をめぐらせる。
美しいと聞いている。
それは、どんなものだろうか。
アキには美しいということがよくわからない。
花も刀も季節の移ろいも、
みんな同じものに見える。
特別に美しいということ、それがアキにはわからない。
アキは大きな剣を振り回しながら、
鍛錬を重ね、
鬼のことを思う。
見知らぬ鬼。
人を惑わす鬼。
みんなのために、鬼を狩らなければいけない。
アキの身がどうなろうと。
否、負けるわけにはいかない。
鬼の、その首をはねなければいけない。
みんなのため、アキ自身のため。
鬼を狩らなければ。
鬼に会いたい。
アキは思う。
どれほど強いのか。どれほど美しいのか。
まだ見ぬ鬼に、
アキは、焦がれた。
じりじりと、おそらくは胸を焦がした。
そのことにアキはまだ、気がついていない。
そんな少女、アキのお話。