07
病体
斜陽街一番街、
そっと隣り合って営業している店がある。
病気屋と熱屋だ。
病気屋は、適度な病気を売り、
熱屋は熱をとったり与えたりする。
どちらかに、もたれかかるわけでなく、
互いに必要としているように、
ずっと斜陽街で営業している。
もっさりとした熊のような病気屋は、
少女のような熱屋と幼馴染だ。
熱屋は時が止まっている。
身体の時が止まっていて、
曖昧な年代のまま、熱屋はどこかうつろになっている。
熱屋が心から笑えるのは、
病気屋の前でだけ。
病気屋はそのことを知らない。
お互い、大切だとはわかっているけれど、
意識して態度を変えているわけではない。
空気のように自然に、
水を飲むように自然に。
斜陽街にいつものように風が吹いたとき。
病気屋は不意に、いやな予感がした。
不安がざわざわ。
ひどい病気でも来るような予感だろうかと、
病気屋は思って、違うと判断する。
こんなに不安なのは、病気ではない。
そして、思い当たるところを心に見つけると、
病気屋は一人でさっと顔を青ざめさせて、
ばたばたと隣の熱屋へと飛び出していった。
熱屋の店のドアを叩く。
返事はない。
開けようとすると鍵はかかっていない。
病気屋はいやな予感がかたちを持つのを感じる。
店に入り、熱屋の姿を探す。
思い過ごしであってくれ、
半ば祈りながら。
オレンジ色の熱のカプセルが、
そこかしこに散らばっている。
そして、奥に行こうとして、倒れこんでいる熱屋を、
病気屋は見つけた。
一瞬息をのみ、すぐさま駆け寄る。
「大丈夫か!」
「…あつい…」
熱屋はうわごとのようにつぶやく。
病気屋に記憶がフラッシュバックする。
熱屋が時間をなくした病気。
そんなことを繰り返さないために、病気を学んだのではないか。
今がそのときなのではないか。
病気やは熱屋の手を握った。
熱を扱う手は、頼りなく、明らかに病気にかかっていた。