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晴天


これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。

廃墟を駆け回る三人娘がいる。
それぞれ名前を、
カモメ、アオイ、アカネ、という。
ネットワークで知り合った三人娘は、
ゲームのように現実と虚構の境目の廃墟を駆け巡る。

三人娘は、お互いのことを良く知らない。
ただ、気があって、
ただ、仲間が欲しかっただけ。
そして、ひどく似ていることを良く知っているから、
お互いの深いところまでは立ち入らない。
彼女達の深いところは、
晴天の光の届かない、
薄ぼんやりした影のようでもあった。
影を見せないように、彼女達は努めて明るくばかばかしく。
きらきら笑いながら、
廃墟を駆け回る。

彼女達は、
砂に埋もれかかっている廃墟にやってきた。
「あれ、こんなのだっけ?」
カモメが携帯端末をいじって、情報を引き出す。
アオイが覗き込む。
「情報が古いのかな」
アオイがそういうと、カモメは顔をしかめる。
「宴会場の廃墟って言うから、どんなものかと思ったけどね」
アカネはそういい、入り口を探す。

地下にものすごい宴会場の廃墟があるらしいけれども、
地上から見えるそこは、
砂に埋もれ、植物が繁茂している。
建物の姿はほとんどとどめていない。
ただ、晴天の下に、
崩れきった残骸が残っている。

アオイは空を見た。
のんきなお日様がきらきらしている。
「何にもなくなっちゃったのかな」
アオイのつぶやきに、
「結局そうなるんだよ、廃墟なんて」
カモメがそう答える。
「何にもないね」
アカネがそういう。
異論はなかった。

三人娘がたたずむ。
廃墟ですらない、崩れきった場所で。
いつか心に抱えている影も、
こうして砂のような感情に埋もれてしまうのだろうか。
お互いに言うことはなくても。
崩れきってしまう前に、
すべてが晴天のもとにさらされる前に、
何かを確かめたかった。

宴はいつか終わる。
そのことは、彼女達もよくわかるような気がした。


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