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理由
ヤジマはギャングのハイ&ロウを前に、
鋭い目を崩さずにいた。
迷いは、ある。
このまま宅急便屋を続けるか、
ならず者に戻るか。
ヤジマの脳裏に、大型犬のようなキタザワの笑顔。
頼りなくて、結構力持ちで、
底抜けにお人よしだ。
ヤジマは決意した。
「その仕事うけよう」
ヤジマは構えていた銃をしまう。
ギャングは、ほっとしたように笑った。
「それじゃ、あとでここに来てくださいな」
「そうそう、このメモは見たら燃やしてくださいな」
ギャングはヤジマにメモを渡した。
ヤジマはメモを見る。
どこかの扉の向こうが書いてある。
ヤジマは視線を上げた。
そこにもう、ギャングの姿はなかった。
ヤジマは、ライターで火をつけ、メモを燃やした。
これで、いいんだ。
「ヤジマさん」
耳に心地よい声がする。
キタザワの間抜け声だとヤジマは思う。
「お届けものはこんなものですか?」
「ああ」
ヤジマは答える。
キタザワは首をかしげた。
「なんかお店に変な客でも来ましたか?」
こういうときのキタザワは鋭い。
いつもはどんくさいのにとヤジマは思う。
「別に、何もない」
ヤジマは答える。
「ふぅん?まぁいいや。飯にしましょう」
めし。
キタザワが作ってくれる、あたたかい食事。
宅急便屋はいつだってあたたかい。
それをヤジマは自分からなくそうとしている。
キタザワ一人でもきっとやっていける。
ヤジマはそう思う。
ならず者の自分がいなくても、
斜陽街の住民として、
穏やかな毎日を過ごすことができるはずと。
ヤジマは悪党だ。
キタザワとは違う。
ヤジマはふいに悲しい感じがした。
こういうのを隠さないと、ほかの悪党に狙われる。
「ヤジマさん」
キタザワが店の奥から顔を出す。
「飯、何がいいですか?」
今だけは、
今だけはまっすぐなこいつの飯を食べよう。
「何でもいい、任せる」
「はい」
キタザワがまっすぐだから。
巻き込まない理由なんて、それだけでいいとヤジマは思った。