12
傀儡


斜陽街三番街。
一番街から入って、がらくた横丁とは逆に向かったあたりに、
うっそうと植物が生い茂る、教会の廃墟がある。
在りし日は、ここで教えが伝えられていたのであろうか。
今は、教会だったということが、
残骸からかろうじてわかるばかりだ。
十字架が、象徴のように残っている。
十字架にかけられたであろう人物像も、
もう、あとかたもない。

かさかさと植物を踏む音がする。
誰かがやってきた。

「誰もいませんね」
やってきたのは人形師だ。
いつものように鞄を持っている、初老の男だ。
人形師は十字架を見る。
「教えの傀儡は跡形もなく」
つぶやくように、歌うように。

人形師はたたずむ。
人形を出すわけでもなく、
祈るわけでもなく、
懺悔するわけでもなく。

「所詮教えのための人形に過ぎなかった」
人形師はつぶやく。
答えるものは誰もいない。
「それでも、人形とは、人を愛するものですね」
人形師は、少しだけ微笑を浮かべる。
教えの人形といった、その存在が、
まるで人を愛することを、知っているかのように。

「傀儡に過ぎなくても、愛することを知っている」
人形師は思う。
それは、人形だけの特権だ。
人形は、人間以上に、
人間を愛している。
思いを溜め込んで、
膨れてしまうほどに不器用ではあるけれど。
人形というものは、だから愛おしいと。
人形師は思う。

「傀儡の、あなたを操っていたのは、誰ですか?」
人形師は問いかける。
答えがないことを知っていて。
でも、問わずにはいられない。
これほどの愛に満ちた教えの傀儡、
一体どうしたら、こんな人形的なものができるものか。
風が教会を吹きぬける。
人形師は微笑み、軽く一礼して、教会をあとにした。

操り人形。
傀儡。
愛することを、彼らは仕掛けで知っている。
人間のそれよりも単純で、
だからこそ、と、人形師は思う。
だからこそ、美しいと。


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