13
橙色


シキは絵師を案内する。
「でな、ここが病気屋と熱屋」
シキが隣り合っているその店を示す。
絵師はうなずく。
「医者みたいなもんすか?」
「医者かぁ…そういうのはいないんだ」
「よくわかんない街っすね」
「最初はみんなそう言うさ」
絵師は首をかしげる。
そして、そのあと、何かを察知したかのように、
「なんか、気配があります」
と、少し険しい顔をしてみせる。
「なんだろ、感じるのかい?」
シキは絵師を見る。
絵師はうなずく。
「ちょっといろいろあったもんで、わかるときがあります」
シキはそういうものかと納得する。
「それで、何の気配だい?」
「過剰な橙色の気配を、感じるっす」
シキは、直感でやばいと思う。
過剰なオレンジ色だとしたら、それは、やばい。
「やばいぞ」
「やばいっすか」
「何とかしないと、まずいかもしれない」
シキが先に飛び出す。
絵師は後を追う。
シキは精一杯早く飛んでいるが、
駆け足の速度程度にしかならない。
絵師は足が速い。
すぐに追いつく。

熱屋のほうにやってきて、
シキはドアを開ける。
奥に、病気屋の背中が見える。
「邪魔するぜ」
シキが声をかける。
病気屋の返事を待たずに、
シキと絵師は奥へとずかずか踏み入る。
「…これっすか」
絵師はつぶやく。
「おい、熱屋は一体…」
シキがたずねようとしている。
そのそばで、絵師は熱屋のそばにかがんだ。
「これならいけます」
「いけるってなんだよ、あんた…」
「いけるってことっすよ」
絵師は懐から紙を取り出し、
紅色の筆を構える。
呼吸をひとつ。
そして、筆を走らせ始める。

流れるように、色を持った絵が描きあがっていく。
橙色の絵だ。
熱すら持っているのではないかと思わせる、
熱屋の絵が、描かれていく。

やがて、橙色の気配は、
絵師の絵に閉じ込められ、
熱屋の過剰な熱も、ひとまずはおさまった。
「あんたは…」
シキがたずねようとする。
「絵師っすよ」
絵師は飄々と答えた。


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