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窮屈
斜陽街二番街。
通称洗い屋。
人懐っこいお姉さんが、何でも洗ってくれるお店だ。
なんでも、そう、なんでも。
秘密の方法で身体の内側まで洗うという。
いつも使うものほど洗わなくちゃ。
彼女はそういい、なんでもせっせと洗う。
洗い屋によく来るお客に、
羅刹という男がいる。
男というには、ちょっと年齢が届いていないかもしれない。
少年というにも、ちょっと違う。
人の生きる気力を食っているという、
殺し屋であり、鬼だと自称している。
羅刹は黒いスーツに黒のサングラス。
黒いボウガンを得物にしていて、
血まみれになると、洗い屋にやってくる。
洗い屋は、あまり羅刹の事を聞かない。
でも、血まみれのスーツはぴかぴかに洗うし、
羅刹が嫌がらなければ、髪だって洗ってあげる。
羅刹はそれをちょっとばかり窮屈だと感じることがある。
生きる気力を糧にしているのに、
洗い屋とはぜんぜん違う存在なのに、
どうしてこう、
洗い屋は優しいのだろう。
羅刹はシャワーから上がると、
アイロンまでかけてある、新品のようなスーツを着る。
着慣れたはずのスーツは、
いつもこうやって、ぴかぴかになる。
どうしてここに帰ってきてしまうのだろう。
羅刹はそんなことを考える。
窮屈だと感じているのに。
血まみれなら、それでかまわないと思っているのに、
どうして洗ってもらうのだろう。
洗い屋の彼女は、
いつものように、いる。
羅刹は疑問を口にしようとして、
言葉にできずに口を閉ざしてしまった。
何が疑問なのかわからない。
この窮屈な感じを、どうやって伝えていいかわからない。
「ボウガンも洗っておきました」
彼女は微笑む。
いつものように、人懐っこく。
「…ありがとう」
「いつものことでしょ」
彼女はうれしそうだ。
羅刹はふと思う。
姉がいたなら、こんな感じだろうか。
以前洗い屋は、羅刹を弟みたいといっていた。
姉とは、こんな風に、
やさしくてちょっとだけ窮屈なものなんだろうか。
悪いものじゃないなと、
この場所が心地いいものだと。
羅刹はもう、知っている。