18
道案内
カヨは斜陽街を歩く。
ここに世界一の探偵がいるはずと。
でも、何から当たったらいいものだろう。
静かな町に風が吹き、
包み込まれているような感覚を持たせる。
カヨはとにかく町の人に声をかけることにした。
世界一の探偵なら、
きっと誰かが知っているはずと。
カヨは斜陽街の一角、
店を見つけた。
何屋かはわからないのでのぞきこむ。
瓶がたくさんある。
人はいるだろうか。
そう思って、さらに覗き込む。
「なんや?」
カヨの後ろから、なまりのある男の声。
カヨはあわてて振り返る。
「客…ともちょい違うな」
男がいる。
長めの髪を後ろで縛っていて、
黒い釣鐘マントが特徴的だ。
「俺はここの主、酒屋の主や」
男はそう自己紹介をした。
カヨは自己紹介をする。
夢がないこと、
世界一の探偵を探しに来たこと。
大体、そういうことを。
酒屋の主はその話を聞いていて、
カヨがあらかた話し終えると、
奥に向かって声をかけた。
「俺はこいつを送ってくる。店番頼むわ」
おくから、はーいと声があり、酒屋の主はうなずいた。
「ほな、いこか」
酒屋の主は飄々と歩き出す。
カヨはあわてて続いた。
「斜陽街は入り組んでてな、なれないと路地は難しいんや」
カヨはうなずく。
そして、
「本当に、世界一の探偵なんですか?」
と、問う。
酒屋の主は、ちょっとだけ苦笑いする。
「多分、な」
多分とはどういうことだろう。
カヨは重ねて問おうとする。
「多分って、何ですか」
「多分は多分。まぁ、あいつは悪いやつではないな」
「悪いやつではって…」
「腕は保障する。勘も保障する」
「ならなんで、多分?」
カヨは尋ねる。
「ほかにも世界一を名乗るのがいそうだからな」
「みんな、違ってました」
カヨはつぶやく。
酒屋の主は、微笑んだ。
「みんな、か。ならきっと、あいつが夢を探してくれるだろうよ」
「できる、人なんですか?」
「多分、な」
曖昧な酒屋の答え。
でも、カヨはそれにかけてみようと思った。
道案内はすたすたと。
カヨは酒屋の後を追った。