19
千里眼
斜陽街番外地。
一応、何番街と区分けされていないあたり。
通りと違って、若干ごみごみしている。
いわゆる路地に面した店。
扉屋はそんなところにひっそりとある。
扉屋は、扉を作る店だ。
入り口を開けると、店の中いっぱいに扉。
様々の素材の、
数え切れない扉。
この扉一つ一つが、
別の世界をつないでいるという。
ここは斜陽街、そういうこともあると、
無数の扉に圧倒されつつ、
たいていの人は納得してしまう。
どこまでも続くような扉の群れ。
その中に、扉屋の作業場がある。
扉を作る場所。
素材はとにかく扉屋のどこかから持ってきて、
様々の技術で扉にしてしまう。
扉屋が作った扉を、誰かがつなぐ。
そうして扉は扉としてあるという。
扉屋は、今日は鑿を振るっている。
木製らしい扉を、
鑿で黙々と彫っている。
何かの彫刻の付いた扉を作るのだろうか。
皺の深い扉屋の顔が、
じっと扉を見据えている。
扉屋は、ずっと先を見ている感覚になる。
この扉の向こうの向こう。
どこか遠くに千里眼を飛ばした気持ちになる。
まだ完成していない扉、
まだつながっていない世界。
扉屋の意識は、ずっと先を見ている。
いくつ扉を作っても、多分足りない。
すべての世界とつなげても、
多分扉屋は満足しないのだろうと思う。
扉屋の千里眼は、
美しいものをとらえる。
こういったものを作りたいと、扉屋は思う。
そして、扉屋の目が戻ってくる。
鑿を振る手を止め、ため息を軽くひとつ。
悪くないなと扉屋は思う。
この扉は、つながれば、
あんなものの存在するところに出る。
それは楽園というやつだろうか。
帰ってこなくなってしまう場所だろうか。
夢のような場所。
扉屋は確かにそれを見てきた。
扉の向こうにそれがある。
だから扉屋は扉を作れる。
いくつでも、いくつでも。
扉屋はまた、もくもくと鑿を振るう。
何か花のような模様が刻まれていった。