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勝機


これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。

路面電車がちんちんと走っている。
カフェをかねている、この町特有のものだ。
ヒビキとワタルはその路面電車に乗って、
ピザを平らげたところだ。

「…それで」
優男のワタルは、あきれたように切り出す。
つんつん頭のヒビキは、
冷めたコーヒーをぐいっと飲んで、
気持ちよさそうに息をつく。
「うん、それで、悪い鬼をやっつけてくれって話だ」
「…またそういう仕事か」
ワタルはため息をつく。
ヒビキはにんまり笑う。
「だってよー、悪いのをやっつけるんだぜ、ヒーローだよな」
ヒーローヒーローと、ヒビキは連呼する。
ワタルはいい加減恥ずかしいが、
ヒビキのこの性格は今に始まったことではない。
ため息をつき、あきらめる。

ワタルはコーヒーを流し込み、
「それで、鬼はどこに出るんだ?」
と、話をむけてみる。
ヒビキは上機嫌だ。

カタナを相手に、
遊園地で死闘を繰り広げて以来、
この手の戦うという仕事が増えた。
ヒビキは単純にヒーローということもある。
ワタルはため息をつきながら、
物騒なヒーローになる。
能力をセーブなしで使えるのは、確かに気持ちいい。
何の因果か能力者の二人にとって、
ヒーローは適職なのかなとも思う。
職かどうかはさておいて。

「…それで」
ワタルは再び同じように聞く。
「勝機はあるんだろうな?」
いつもと同じように、勝機があるのかを聞く。
そう、いつも。
そして、いつもヒビキは答える。
「俺とお前なら、敵はいないって」
にかっと気持ちよく、ヒビキは笑う。

カタナという戦士が教えてくれたこと。
言葉ではないけれど、
勝機があるならその戦いを捨てるなと。
そして、己の力を信じろと。
なんとなく、ワタルはそんなことを教えられたような気がする。
ヒビキもそうだろうか。

「さぁ、鬼退治だ!」
ヒビキは快活に言い放った。
ワタルは軽くため息をつく。
これは心地悪いものではない。


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