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冒険


熱屋で絵を描いて、
過剰な熱がおさまったのを確認した絵師は、
また、斜陽街を歩き出した。
空飛ぶ魚も付いてきている。
絵師はのんびり歩く。
シキもふよふよと付いてくる。

「なぁ」
シキが声をかける。
「なんすか?」
「あんたはどっから来たんだ?」
シキの問いに、絵師は考え込む。
「なんかの拍子に来たとしか、わかんないっす」
くだけ敬語で絵師は言う。
「なんかの拍子っても、いろいろあるだろ」
「うーん…」
絵師は考え込む。
糸目が困っているように見える。

絵師は、はたと何か思い出したらしい。
「冒険」
「冒険?」
シキは聞き返す。
「俺、仲間と一緒に冒険していたんすよ」
「へぇ、冒険か。どんなことしてた?」
シキは興味しんしんでたずねる。
「まぁ、冒険っすよ。いろんなことをしました」
「大冒険の話を聞かせてくれよ。面白そうだから」
「語ることはないっすよ。この街で話すものじゃないっす」
「けち」
「けちでかまいません」
絵師ははぐらかす。
でも、シキは感じる。
冒険を懐かしく思っているんだろうなと。

「あんたには仲間がいたんだね」
「ええ、気のいい仲間でした」
「過去形にするもんじゃないよ」
シキは言う。
「なんかの拍子に帰れるかもしれないじゃないか」
「帰れますかね」
「そしたらあんた、斜陽街の話を仲間にするんだよ」
絵師はくすりと笑った。
「空飛ぶ魚がいたとか、信じますかね」
「絵師のあんたの世界を知らないけどな」
「まぁいいっす」
絵師は話を切り上げる。
そして、また、斜陽街を歩き出す。
シキはついていく。
ふよふよと。

旅慣れている足だなと、
シキはなんとなく思う。
いろんなことをこの絵師は見てきて、
それを絵に起こしているのだろう。
一体どんな冒険をしてきたというのだろう。
死にかけたりはしたのだろうか。

「おい」
シキは声をかける。
「なんすか?」
「なんでもない」
「変なお魚っすね」
絵師はくすくす笑った。
何かを思い出して笑っているように思われた。


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