27
漢方
斜陽街三番街、がらくた横丁。
小さな店が寄り添っている、
ごみごみした横丁だ。
薬師は、この日、玩具屋を訪れていた。
薬師は薬を扱う少女。
デニムのジャンバースカートをはいていて、
ぼさぼさの髪を後ろでまとめている。
玩具屋はヘビースモーカーのひょろりとした中年。
丸い眼鏡をかけている。
「でさ、自信作ができたの」
薬師は、玩具屋のちょっとヤニ色した店ではしゃぐ。
「自信作かい?」
玩具屋はタバコの火を消す。
薬師はそれを示す。
「そう、そのタバコ」
「タバコ?」
「漢方で作ってみたのよ」
「へぇ…」
玩具屋は、気の抜けたように言う。
薬師は、ちょっと面白くないらしい。
「健康に良くて、ヤニが出なくて、被害がないんだから」
「それでもなぁ…」
玩具屋は、言葉を選んでしまう。
いいことずくめのものは、逆になんだかよくない気がする。
そんなことを薬師に言って通じるだろうか。
「これ!」
薬師は、一本のタバコを取り出す。
「…これ?」
「すってみて!」
「害は、ないんだよね」
「そうなの」
薬師はうれしそうに笑う。
玩具屋は内心やれやれと思いながら、
漢方のタバコに火をつけた。
煙を吸い、はく。
ため息ひとつ。
何かに似ているなと感じる。
これは、あれか。
「病院にいったみたいだな」
玩具屋はつぶやく。
薬師は匂いをかいで、
「そうかなぁ?」
と、首をかしげる。
「なんだかね、健康になりなさい…という施設の匂い」
「ふぅん…」
「ちょっと不健康でも、いつものタバコのほうがいいな」
玩具屋はやさしくそういう。
薬師はちょっとわからない顔をしていたが、
「そっか、健康も過ぎちゃうといけないのね」
と、それなりに納得したらしい。
「健全であることも、過ぎちゃうと逃げ場がなくなるんだよ」
玩具屋は、漢方のタバコを、
とりあえず尽くすまですう。
「うん、お薬もそうなの。なんというか、過ぎちゃいけないのね」
「そう、でも、漢方のタバコというのは…なんというか」
「なぁに?」
「眼の付け所は良かった」
玩具屋がそういうと、
薬師は、うれしそうににんまり笑った。