28
誘
斜陽街番外地。
探偵事務所はひっそりとある。
カヨはそこまで道案内をされて、
酒屋の主は去っていった。
目の前には、探偵事務所のドア。
カヨは深呼吸をする。
世界一の探偵とは、どんなものだろう。
ドアノブに手をかけると、
「入りな」
と、男の声がする。
カヨは一瞬びっくりをする。
そして、それが世界一の探偵だからかと、
思い直して、ドアを開けた。
どれだけすごいものがあるのか、
覚悟していたカヨの前には、
ごく普通の事務所というか、
そっけない部屋があった。
ソファー、机、棚がいくつか。
奥にはまた部屋があるらしいけれど、
とにかくここが探偵事務所らしい?
カヨは事務所を見渡す。
声の主はどこだ?
思ったそのとき、
カヨの頭がぽんぽんと叩かれる。
「横にまで気をつかわないってのは、うっかりだな」
男の声は楽しんでいるようでもある。
カヨは、ぽんぽん叩いてきたその男を見る。
長身、年はまだ若いという程度。
そして、カヨでもわかるほどに探偵だと感じた。
なんでだろう?
「お察しの通り、俺が探偵だ」
探偵はにやりと笑う。
「あの、世界一の?」
カヨは尋ねる。
それが大事なのだ。
探偵はまた、ぽんぽんとカヨを叩いた。
「まぁな」
カヨは、とにかく探偵に依頼をしなくてはと、
頭の中を総動員して依頼を伝えようとする。
「夢を、探して欲しいんです」
「わかってる」
「え?」
「俺の勘がそういってるんだ。カヨの夢を探せってな」
「僕の名前…」
「勘はいいんだ。で、依頼するってとっていいのか?」
カヨはこくこくとうなずいた。
「お、おねがいします!」
探偵は笑った。
「任せろ。夢を探し出してやる」
探偵はそう言いきったあと、
じっとカヨの目をのぞくしぐさをした。
「えと、その…」
「ああ、誘いがあるのか…この目は参考になる」
「参考?誘い?」
カヨは尋ねるが、探偵はうなずくばかり。
「事務所で待ってな。あとで助手が茶でも出してくれるさ」
カヨが答える前に、探偵はベージュのコートを羽織って、出て行った。