30
盛衰
これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
二人組みの男が、廃墟を歩いている。
なにか、水槽だったものの多い、
工場のような廃墟を、
片方は大きなカメラの機材を持って、
もう片方は、何かを考えながら身軽に歩く。
「なぁ、セン」
身軽なほうが、カメラマンにむけて呼びかける。
「何だ、トウ」
「ここ、何の廃墟だったか知りたくないか?」
「さぁな」
センと呼ばれたカメラマンは、機材を一度下ろし、
帽子を整え、また、機材を持つ。
「知りたいだろ?知りたいよな?」
「どっちでもかまわん」
「ふっふーん、知りたいだろう」
トウは廃墟の中を歩きながら、センに声をかける。
「ここはな、神様作ろうとした工場なんだとさ」
「はぁ?」
センは理解できない。
この水槽で神様を?
「ふっふーん」
トウは面白そうに、センの反応を見ている。
「で、神様はできたのか?」
「できたんなら、こんな廃墟ないと俺は思う」
「それもそうだな」
いいながら、センは無意識にカメラをセットしている。
トウは、センが構えるそこからすっと離れる。
この呼吸だけは、長年廃墟カメラマンとライターをやっていないと、
なかなかつかめないものだ。
「神様が衰えるなんて、俺はないと思うんだ」
「そうか」
「神様が栄えるなんてこともないと思うんだ」
「うん」
「生返事だな」
「まぁな」
生返事のセンは、カメラを構えている。
トウは構えているそこを見る。
かつてこの工場には、
神様もどきがいた。
トウは頭の中で文章を走らせる。
美しく切り取られた廃墟の写真に、
栄枯盛衰を見るならば、
神様ってのは、そんなのから外れたところにいると、
二人は思う。
廃墟は人と時間が作り上げるもの。
何を見出すかは人それぞれだけれど、
それは、美しさかもしれない。
それは、ノスタルジアかもしれない。
言葉にしにくい、この感覚を伝えたいと、
センとトウは、廃墟を今日も歩く。