31
義賊


ギャングは陽気に鼻歌を歌う。
二人でハモっている。

ヤジマは後ろから歩きながら、
これでよかったのだろうかと、
何度も考える。
よかったのだと、何度も答えが出ているのに、
キタザワがちらつく。
(ひとりでやっていける)
(ならず者に巻き込んじゃいけない)
ヤジマの勝手な都合といえばそれまでだ。
でも、こちら側にキタザワを引き込んじゃいけない。

「ここですね」
「そうそう、ここですね」
ギャングはある場所に、たどり着いたらしい。
「じゃあヤジマさん、俺達仕事にいきますから」
「そうそう用心棒、頼みますね」
ギャングはそういうと、路地にすっと入っていった。
ヤジマは、路地の入り口に立つ。

間があり、
すさまじい悲鳴。
生きたまま何かをえぐったらこうなるかもしれない、
そんな悲鳴。
ヤジマは考える前に路地に走り出していった。

そこには、ひどい光景があった。
見た目は何も変わらない、
人が一人とギャングが二人。
斜陽街にいたヤジマだからわかる。
夢を抉り取ったんだと。

「なにを、した?」
ヤジマは尋ねる。
「義賊らしいことですよ」
「そうそう、俺達は義賊なんですよ」
ギャングは笑う。
「夢をコピーするための、オリジナルも必要なんです」
「そうそう、これでみんなに夢が配れます」
ヤジマは無意識で銃を構える。

「あたしは、納得いかないね」
「おや、そうですか」
「ただの強盗じゃないか」
「そうですかね」
「どうせ、コピーも売るんでしょ?」
「そうですね」
「義賊なんかじゃない」
「これは困った」

ギャングはニヤニヤ笑っている。
ヤジマはヤジマなりに許せないものがある。
ならず者としていても、
通してはいけないことがある。
立ち向かわなくてはいけないところがある。

「とりあえず、ですね」
「そうそう、俺達のやり方は知ってしまったわけです」
「ちょっと黙っててもらいましょう」
「そうそう、夢見て眠れ」

ヤジマはわかっていた。
一人じゃどうしようもないことを。
最後にキタザワの笑顔を思い浮かべ、
ヤジマは夢にとらわれた。


続き

前へ


戻る