33
高貴


絵師とシキは、斜陽街を歩く。
「あんたはどんなものが好きなんだ?」
シキはたずねる。
話題をとりあえず作りたいのかもしれない。
「俺は、高貴な人が好きっすね」
「高貴?」
シキはたずね返す。
「はい、高貴な人」
「そりゃ、どんな人だい?」
「貴族だったり、神に仕えていたり、そんな人っすかね」
「はー、かみさまねぇ」
シキは感嘆して、絵師はうなずく。
「手の届かないものほど、あこがれるものっすよ」
「そんなものかい」
「そんなものです」
シキは考えて、
「そうだ」
「なんすか?」
「神様に会えるぞ、きっとすごく高貴だ」
「は?」
「いいからついてこい!」
「あ、はいはい」
シキはふよふよといつもの調子で空を飛ぶ。
絵師はついていく。

「神屋?」
絵師は看板を見る。
簡単な看板、いや、とってつけたような看板だ。
「何の冗談っすか?」
「いや、話すと長くなるがな、ここには神様が住んでいる」
「は?」
「まぁ、会うだけ会ってみろってことだ」
「はぁ…」
シキはひれで扉を開く。
「邪魔するぜ」
絵師は後に続いた。

「あら」
「シキさん」
男女がいる。
ものすごい後光が差しているものを期待していたわけではないが、
ただ、何かがずれている感じはする。
あるべきものがなくて、
ないはずのものがある感じ。
人とは違う生き物の一種と言った方が近いかもしれない。

「これが神様っすか?」
「そうだ、斜陽街にやってきた、神様の一対だ」
「一対?」
「腹がつながってるんだ」
「ああ…」
不思議な色の布が巻かれていてわかりにくいが、
片時も離れようとしない。
つながっているのか。
不思議なものだと絵師は思った。

「神様っすか」
「まぁ、斜陽街ではそういわれてる」
「俺の求める高貴とは、少し違いますね」
「そうか、そういうものなのか」
「そういうものっす」
絵師はうなずく。

絵師なりに高貴の基準がある。
それはちょっと、俗っぽい基準かもしれないと、絵師は思った。


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