37
魂胆


斜陽街に出没する、
螺子ドロボウという泥棒がいる。
螺子ドロボウは、調子をつかさどる螺子を盗むのを、
生業としている。
もしかしたらただの趣味かもしれない。
趣味でもどうにかなってしまう街が、
斜陽街でもある。

螺子師は、螺子ドロボウのからかい相手だ。
まじめで、仕事熱心で、
何よりも螺子を扱っている。
身体の螺子、頭の螺子、
それの調子を整えるのが、螺子師の仕事だ。
螺子ドロボウは常日頃から、
螺子師の見ている前で螺子を盗んで見せる。
当然螺子師は激昂する。
それを見て楽しむのが、螺子ドロボウの日課だ。

螺子ドロボウにも魂胆はある。
ただ楽しむだけという趣味もあるけれど、
何より、螺子に調子をつかさどってもらうのが、
螺子ドロボウとしては、あまり気持ちのいいものではない。
螺子を憎んでいるわけではない。
ただ、なまじっか身体の螺子が見えるだけに、
こんなものが、と、思ってしまう。

誰もわかってくれない。
ならば螺子が見えるもの同士、
ちょっと螺子師をからかってやろうと。
スリルを求めるのも悪くないし、
どうも螺子ドロボウは、
心根がちょっとだけ、不健全なのかもしれない。
ちょっとだけ、ひねくれている。

みんな螺子を宿している。
見えないけど、ある。
螺子ドロボウはそれが見える。
誰がこんなものを作ったのだろうか。
だとしたらその魂胆は何だ。
神様というやつか。
だとしたら神様は相当趣味悪いなと螺子ドロボウは思う。
きれいな螺子を、こんな風に隠すのがよくない。
はずしてあげようよ、よく見えるように。

螺子ドロボウは夢見る。
楽しい追いかけっこと、
くるくる回るきれいな螺子。

螺子ドロボウは人嫌いなわけではない。
人も、螺子も、多分別物だったら好きなのだ。
一緒にあるからよくないから別々にする。
きれいなその螺子を、盗む。
それが、螺子ドロボウのやり方で、
螺子師はそれがよくないと思っている。

今日も今日とて鬼ごっこ。
楽しい楽しい鬼ごっこ。
鬼さんこちら、螺子のなるほうへ。


続き

前へ


戻る