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迷夢
探偵は斜陽街を歩く。
勘が斜陽街を示している。
ならば斜陽街のどこかに、
探す夢はあるはず。
どこかから迷い込んだのかもしれないし、
あの少年が落としていったのかもしれないし、
あるいは。
誰かが抉っていったのかもしれない。
最後の可能性は、どこかから勘に響いてきたものだ。
これではないなと探偵は思う。
否定するのは、探偵の勘だ。
探偵は、斜陽街を勘のままに歩く。
しかしそれは、迷っているようにも感じる。
探偵は立ち止まり、
斜陽街の風を感じる。
何かが来る気配はあるか、
何かが去る気配はあるか。
あるいは、何かが生じる気配はあるか。
斜陽街の住人なら、
風の色すら見える。
色といっても、空気が極彩色に感じるわけではない。
ただ、気配が色づいて感じることができる。
探偵や扉屋、妄想屋などが、
そういうものに敏感かもしれない。
「迷夢」
探偵はつぶやく。
迷う夢と書いて迷夢。
悩むことだと聞いた気がする。
あの少年の失った夢は、
斜陽街のどこかで、迷っているのだろうかと。
探偵はそんなことを思う。
勘が響く。
夢はまだかたちになっていないと。
誰かがかたちにしてくれるまで、
斜陽街のどこかにあると。
ある、と。
探偵はその勘を肯定した。
今度の響いた勘は、多分、信じられるものだ。
ならば、夢がかたちになるまで待つか。
いや、歩くのだ。
とにかく、迷う勘の赴くがままに、
それが斜陽街に迷い込んだ夢のかたちを知ることであり、
やがて手に入れるであろう、
少年の夢を、感じやすくするための、
これは、儀式かもしれない。
悩んだ果ての夢は、うまいものだと。
なんとなく探偵は思う。
少年も悩んでいるだろうか。
探偵は、歩く。
世界一と呼ばれた、プライドにかけて、
迷いの果てに夢を見つけ出すと、
探偵は意地をかけている。
斜陽街の風は、
いつものように吹いている。
探偵は颯爽と歩く。