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斜陽街一番街。
電脳中心に、キタザワは来ていた。
ヤジマの姿が見えない。
探しても探してもいない。
思いたって来たのが、電脳中心というわけだ。
「お願いします!」
キタザワは土下座せんばかりの勢いで頼み込んで、
電脳娘々は、半ばあきれた調子で引き受けた。
「そんなにしなくても引き受けるのに」
「それでも!」
「はいはいわかった、ヤジマの居場所ね」
「お願いします!」
電脳娘々はため息をついた。
いつもの電脳の中心にいって、
ゴーグルをかけ、コードをつなぐ。
部屋に満たされた機器が、フル稼働をしているのが、
機械に疎いキタザワでもわかる。

(見つかってください)
キタザワは祈る。
(俺を置いていったりしないでください)
キタザワは心のヤジマに懇願する。
苦笑い、怒鳴りつけ、時には不安そうな顔も見せ、
化粧っ気のいまいち少ない、ヤジマの表情。
キタザワにとってはヤジマが世界のすべてだった。
強盗だって怖くない。
つかまることだって怖くない。
ただ、ヤジマがいればいい。
いなくなって気がつく。
本当に、ヤジマが世界の中心だったと。

「見つけたよ」
電脳娘々がコードをはずしながら告げる。
「本当に!どこですか!」
「あせらないあせらない」
部屋の一角で印刷をしている音がする。
「もうすぐ印刷出るよ、それを持っていくといいよ」
キタザワは唇をかみ締める。
一秒だって惜しい。

「キタザワ」
電脳娘々がたずねる。
「何がキタザワを、そうさせるんだい?」
キタザワは言葉を探す、何だろうかと。
そして不意に、言葉がひらめく。
「絆、かもしれません」
「きずな、ね。いい言葉だね」

電脳娘々は、プリントアウトされた用紙を手渡す。
「厄介なことになってるかもしれない。それでも?」
「それでも!」
間髪いれずにキタザワは答える。
電脳娘々は満足げにうなずいた。
「ヤジマとキタザワで、宅急便屋だよ。あんたたちは」
「はい!その通りです!」
キタザワは駆け出す。
その背中を、電脳娘々は見送った。


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