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猫耳


斜陽街二番街、通称猫屋敷。
猫がたくさんいる屋敷だ。
行儀よくたくさんの猫が暮らしていて、
猫屋敷の女主人が、いつもゆったりと猫の世話をしている。
猫は基本家猫だが、
ふらりとどこかに行っては、
居心地がいいのか、猫屋敷に戻ってくる。
女主人も閉じ込める真似はしないし、
猫も気ままに振舞っている。

猫の耳は、
時折、人に聞こえないものを察することがある。
そんなことを、猫屋敷の女主人は思う。
すべてがわかるわけではないが、
斜陽街の外の不思議な音を、
時折、猫は聞いているのではないかと、
そんなことを思うことがある。

いつものように餌をあげていると、
不意に、猫の耳がぴくっと反応する。
「あら?」
女主人は、なんだろうと思い、
次いで、ほかの猫も何かを聞いているのを確認する。
「何か聞こえるのね」
女主人も耳を澄ます。
でも、それらしい音は聞こえない。
猫が、鳴きだす。
いつもはおとなしい猫達が、
何かを訴えるように鳴いている。
「どうしたのかしら?」
何が聞こえたのだろう。
女主人にはわからないが、
猫達は何かを聞いた。
それを女主人に訴えかけている。
にゃあにゃあとしか聞こえないのがもどかしい。

「誰か猫の言葉がわかる人がいればいいのにね」
女主人は、猫の頭をなでた。
なんだか、
『ちがうんだ』
と、言われたような気がした。

『夢にとらわれているんだ!早く!』

誰かの声が、耳に聞こえた気がした。
声は意味を持っていたような気もしたが、
やがて記憶の中でも、
声はにゃあにゃあにとってかわられた。
言葉が何だったのか、もうわからない。

猫の耳に何かが届いたから、
猫達は必死に何かを伝えようとしている。
女主人はわからないなりに納得する。
「みんな、何かを聞いたのね」
猫はうなずくような動作をして、
『ごめんで終わらせちゃいけないよ!』
とでも言うかのように、にゃあと鳴いた。


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