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反乱


これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。

歌う獣。
夢を裁かれ、抉られ、心の崩れた者。
夢なき獣に成り下がったもの。
反乱組織は、歌う獣を利用することになった。
思惑は様々あるけれど、
夢なき獣は利用された。
使い捨てのコマとして。

反乱の火の手が上がる。
それは瞬く間に国に広がる。
歌う獣は感情を制御できない。
反乱の風に吹かれるのを、
歌う獣はとめられない。
主義主張でなく、
歌う獣は風の進む方向に流れる。
風は反乱に吹いている。
国を転覆させる方向に吹いている。
歌いながら、そちらに向かうことを、
歌う獣はとめられない。

夢はどこに行ったのだろう。
遠吠えはそんなことを問うているようであり、
悲しげであり、
または、うつろのようでもあった。
空っぽの器に共鳴をさせているような。
そんな、反乱という現象。
皆が立ち上がったわけでない。
国が、鬼が、悪だと、
歌う獣は認識しているわけではない。
ただ、そちらに行けと、風がいっているだけ。
行けばどうなるのだろう。
歌う獣はわからない。

わからないけれど、
夢が抉られたところが、
痛まなくて済むのなら。
もう、心のくずれるのを聞かなくて済むのなら。
その果てが、何だったとしても。

歌う獣は、歌う。
祈るように、ほえるように。
国は変わる。
風の吹くままに。
獣にその先なんてわからない。

夢はどこに行ったのだろう。
裁かれ抉られた夢は。
本当に消えてしまったのか。
あるいは、
夢なんて曖昧なものが、そもそもなかったのか。
鬼なんていなかったのか。
無意識まで裁こうとした、
国や国民がおかしかったのか。

もう、いまさら問うものはいなかった。
国は戦火で焼かれる。
獣は鳴く。
人は泣く。
そこには意味などなく。
悲しいくらい曖昧なものにすがりついた、
悲しい滅びがそこにあった。


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