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勇気
キタザワは電脳娘々が検索した扉をくぐる。
この先にヤジマがいるはず。
キタザワは、印刷された紙を見る。
それによれば、ヤジマはとらわれている可能性が、
とても高いということ。
ほぼ確実だろうと。
扉はどこかの国の、町の片隅につながっていた。
あてのない国。
でも、調べはついている。
この国のどこかに、
ヤジマはとらわれている。
(勇気をください)
キタザワは心に思う。
(どんな悪党にも負けない、勇気をください)
深呼吸をひとつ。
ヤジマは、待っていないかもしれない。
それでも。
キタザワが来ることを、望んでいないかもしれない。
そうかもしれない。
それでもヤジマのもとにいくというのか。
「当たり前です」
キタザワの心が落ち着く。
ヤジマとキタザワで宅急便屋だし、
ヤジマがいやな目にあっていれば助けるし、
なんとしてでもヤジマを返して欲しい。
何を代償にしてもかまわないと、初めて思った。
キタザワは駆け出す。
歌の満ちる国の中を。
人が獣のように歌っている。
何かを揺さぶるような歌だ。
キタザワは駆ける。
獣のように歌う人の群れのどこかに、
ヤジマの背中を探してしまう。
もしかしたらと思ってしまう。
ギャングのもとに、
ヤジマはとらわれているという。
キタザワは情報のそこへ向かう。
歌が聞こえる。
夢のように歌っている獣の歌。
今のキタザワに敵はいない。
キタザワは一人の鬼に近いものになっていた。
「ヤジマさん…」
その名だけを呼ぶ。
勇気はいつでも心の奥底にある。
気がつかないうちに、キタザワはそれを見つけていた。
鍵はヤジマ。
ヤジマのためなら、
キタザワは何だってできた。
いままでも、これからも。
キタザワは、情報にあったギャングの居所を見つける。
(怖くなんかありません)
キタザワは心につぶやく。
(ヤジマさんを失うことに比べたら)
この勇気の前に、敵は、いない。