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細雪


「さすがに斜陽街に雪はないでしょう」
合成屋はそんなことを言い出す。
「何とか降ったら面白いですかね」
そこにたまたま居合わせて砂屋が、そんなことをいってみる。
「雪は後始末が大変ですからねぇ」
「後始末に困らないなら、雪もいいものですけど」
「そこなんですよねぇ…」
と、合成屋は困ったようなそぶりをする。
合成屋はのっぺらぼうの仮面をかぶっていて、
いつものように、表情はわからない。
砂屋はそれを気にするわけでもなく、
合成屋と一緒に悩む。

「雪のような砂を降らせるってどうでしょう」
「砂、ですかぁ」
「砂でしたら、操れますし」
砂屋は当然のように言う。
そうでなければ斜陽街で砂は売れないとでも言いたげに。
「ふぅむ…」
合成屋は考え込んで、
「そうだ!」
と、何か思いついたらしい。
「砂屋さん、適度に白い砂を少し持ってきてください」
「おや、何かしでかす気ですか?」
「降らぬなら、降らしてみせよう細雪、ですよ」
合成屋は楽しそうにそんな事を言う。
砂屋はにっこり微笑んだ。

合成屋の賢者の井戸に、
砂屋はほどほどの白い砂を持ってやってくる。
「こんなものでいいでしょうか」
「うん、上等」
合成屋は白い何かを用意している。
「なんですか?」
「とりあえず氷。合成しやすいように砕いてあるのです」
「なるほど」
「じゃ、はじめまぁす」
合成屋は間延びした声で宣言する。

賢者の井戸に、
白い砂と白い氷が放り込まれる。
合成屋はもにゃもにゃと何か唱えて、
賢者の井戸を蹴飛ばす。

たちまち立ち上る白い煙。
合成屋の店から、
ガラクタ横丁へと、
煙は広がっていく。
そして、のぼっていった白い煙はかたちになる。
細雪という現象になって。

「まぁ、この近所が精一杯ですけどねぇ」
「雪、ですね」
彼らは夢のようだと、思ったとか思わないとか。
斜陽街三番街に、
珍しい雪の降ったお話。
すぐに始末されてしまう、
頼りない雪の降ったお話。


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