58
覚醒
探偵事務所に、探偵は一枚の絵を持って戻ってくる。
少年の目が誘っていた夢は、
勘が示すとおりならこれだと。
探偵は確信している。
ドアを開けると、少年は助手とお茶を飲んでいた。
「見つけた」
探偵は短くそういう。
少年は目を丸くして、
そして、お茶なんか忘れたように駆け寄ってくる。
「この絵が、夢を形にしたものだ」
「夢を…僕の」
「そう、カヨ。あんたの夢のはずだ」
「僕の」
探偵は、絵を差し出す。
カヨは、その絵をそっと手に取る。
カヨの視覚触覚を通して、
夢が再構築されて戻っていく。
ああ、僕は今まで夢を見ていたんだと。
カヨはそんなことを思う。
夢?僕の夢は失われて、
ここにこうして戻ってきたものじゃなかったのか?
いや、僕はずっと夢を見ていたんだ。
空を飛ぶ少女が守ってくれるなんて、
そんなの夢でしかありえないじゃないか。
だって世界一の名探偵が。
世界一ってそんなに簡単に見つかるものなのかい?
カヨは混乱する。
カヨの中で夢と現実と記憶が激しくぶつかっている。
目を覚まそうよ。
目を?
そして、夢のことは奥深くにしまうんだ。
いやだ。僕はもっと夢を見ていたい。
だめだよ。アキのことも忘れなくちゃいけないんだ。
アキ、それは誰だい、戦士かい?
アキは戦士かもしれない。
でも同時に誰でもないのかもしれない。
忘れちゃいけないんだ。
アキに夢を話してあげないと。
もう、彼女は彼女じゃなくなったよ。
君もこの夢を忘れるときが来たんだ。
それは時間の流れに乗って、必ず来るものなんだ。
忘れよう。
そして、目覚めよう。
カヨは覚醒した。
ぼろぼろ涙をこぼしながら、
心の痛みに耐えながら、
カヨは覚醒した。
カヨはもう、ここにいる理由を思い出せなかった。
目の前の男は少し寂しそうに微笑むばかりであり、
カヨは、帰らなければいけないと、
そればかりを思った。
涙が止まらないのは、なぜだろう。