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手腕


斜陽街番外地。鳥篭屋はそこにある。
鳥篭は帰ることができる。
あるべきところに帰るとき、鳥篭を使うと戻れる。
それが、この鳥篭屋の鳥篭の仕組みであり、
それ以上でもない。

鳥篭屋のおばさんは、張り切っていた。
鳥篭の注文が来ているのだ。
なんでも、鬼を帰したいという依頼だ。
鬼だろうが悪魔だろうが、
あるべきところに返すのなら、
鳥篭屋の出番だ。
何匹だって返すよと、鳥篭屋は張り切る。
ここが手腕の見せ所とばかりに。

結構な注文を、
鳥篭屋は一人でさばく。
さばけなかった鬼はいない。
何か引っかかった気がするが、
鳥篭屋はため息ひとつで吹き飛ばした。

夢を裁く鬼をどうしたこうしたってやつかね。
鳥篭屋は思う。
夢なんて、曖昧なほうがいいだろうに、
どうしてそこに線を引くかなと、
鳥篭屋は思う。

夢の鬼になったやつもかわいそうに。
鳥篭屋は思う。
どこに帰るんだか知らないけど、
安息の場所だといいね。
鳥篭屋は心をこめて鳥篭を作る。
それがちゃんと帰る道しるべになるように。

飛ぶように売れる鳥篭。
鳥篭の数だけ、
帰っていくであろう鬼。
ちゃんと帰れたかなんて、
聞かないし野暮ってもの。
でも、それだけの数の安息が訪れたのなら、
鳥篭商売やっていてよかったと、
鳥篭屋はそんなことを思う。

鬼は子供を追いかけ、
鬼は大人に追われる。
中間色のような、鬼。
誰か鬼に、立ち止まることを教えてやってくれないか。
夢の中の曖昧な景色に溶け込むことを、
誰か鬼に教えてやってくれないか。
鳥篭屋の祈り。
鬼さんこちらといわなくてもいい場所に、
寂しい鬼を連れて行きますようにと。

飛ぶように売れる鳥篭。
鬼を帰すために、特別に作られた鳥篭。
鬼ごっこの終わりを告げる鳥篭。
その一つ一つに、
鳥篭屋の腕と技術と、
確かな祈りをこめて。


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