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相棒
キタザワは、鬼のように強かった。
ヤジマを目指すただそれだけの思いで、
キタザワはギャングのアジトを壊滅させた。
「ヤジマさんは、どこだ」
キタザワは、先ほどやっつけた、
ギャングに問う。
「ヤジマは、夢に監禁して、あるんだ」
「今すぐ解放しろ!今すぐにだ!」
キタザワは柄になく怒鳴る。
それは、鬼の叫びさながら。
ギャングは、生きた心地がしない顔で、
ついでに、痛めつけられた身体で、
ヤジマの解放をおこなった。
ヤジマは、うっすら光が見えてくることを感じる。
あれ?と、思う。
ヤジマは目を閉じる。
瞼の奥にはキタザワの姿がある。
瞼を閉じたのに明るくて、
なんだかキタザワが近くにいるような気がする。
「ヤジマさん」
声まで聞こえる、末期だなとヤジマはふわふわ思う。
「ヤジマさん」
ヤジマはそろそろと瞼を上げる。
キタザワが泣きそうな顔でヤジマを見ていた。
「ヤジマ、さん」
ヤジマは腕を上げてみる。
夢、だろうか。
その手でキタザワの頭に触れてみる。
大型犬のようなキタザワ。
なでると、本格的に泣き出してしまった。
「よかったぁ…」
ぐしゃぐしゃに泣いているキタザワを見て、
ああ、こいつは本物だと、ヤジマはとろとろと思った。
ギャングは悪夢でも食らったような顔をしている。
キタザワは泣いている。
大体何が起きたかは想像つくけれど、
ヤジマは自分が、かっこ悪いなと感じた。
キタザワを置いてきたのに、
そのキタザワに助けられるなんて、
心底かっこ悪いと思った。
「ヤジマさん」
キタザワが涙声で呼ぶ。
「俺って、ヤジマさんの、何ですか?」
ヤジマはしばし考える。
そして、いい言葉をひとつ思いつく。
「相棒」
「え?」
「ヤジキタ宅急便の、相棒だ」
ヤジマは照れくさそうにそっぽを向く。
キタザワは泣き笑いした。
「帰りましょう、ヤジマさん」
「…いいのか?」
「当然です。相棒ですから」
ヤジマはしぶしぶという風に、うなずいた。
心から、うれしいと思ったのではあるけれども。